著者
佐藤 宏之 井辺 時雄 根本 博
出版者
農業技術研究機構作物研究所
雑誌
作物研究所研究報告 (ISSN:13468480)
巻号頁・発行日
no.9, pp.63-79, 2008-03

「ミルキープリンセス」は、縞葉枯病抵抗性を備えた栽培特性の優れる低アミロース米品種を育成することを目標に、「関東163号」を母、「鴻(こう)272」を父とする交雑組み合わせから育成された品種である(「鴻272」は、「コシヒカリ」の低アミロース性突然変異系統であり、「ミルキークイーン」の姉妹系統)。1997年から「関東194号」の地方系統名で、関係府県に配付して地域適応性を検討すると共に、品質・食味等の特性を調査した。2003年に「水稲農林387号」として登録され、「ミルキープリンセス」と命名された。この品種の特性は以下の通りである。1. 出穂期及び成熟期は「ミルキークイーン」より2日程度早く、育成地では"早生の晩"に属する粳種である。耐倒伏性は「ミルキークイーン」より強く"強"である。2. 収量性は、育成地における標肥栽培(N成分:6~8kg/a)では「ミルキークイーン」を10%程度下回るが、多肥栽培(N成分:10~14kg/a)では「ミルキークイーン」並である。3. 低アミロース性遺伝子Wx-mqを保有し、白米のアミロース含有率は約9%の低アミロース米品種である。炊飯米の粘りは「コシヒカリ」に優り、「ミルキークイーン」並である。食味総合評価値は、「コシヒカリ」、「ミルキークイーン」並の"上中"である。4. 縞葉枯抵抗性遺伝子Stvb-iを保有し、同病害に対して"抵抗性"である。5. Wx-mq及びStvb-i遺伝子を併せ持つ低アミロース米品種は、現時点で本品種以外には育成されていないことから、2遺伝子のDNA鑑定法(佐藤ら(2002)、斎藤ら(1999))を併用することで、「ミルキープリンセス」は他の水稲品種との識別が可能である(2007年現在)。以上の特性から、「ミルキープリンセス」は縞葉枯病常発地や肥沃地向けの低アミロース米品種として、普及・活用が期待される。
著者
坂井 真 井辺 時雄 根本 博
出版者
農業技術研究機構作物研究所
雑誌
作物研究所研究報告 (ISSN:13468480)
巻号頁・発行日
no.4, pp.1-15, 2003-02
被引用文献数
4

「クサホナミ」は、中国農業試験場において交配されたアケノホシ/中国113号の交配組合せの後代より、作物研究所(旧農業研究センター)で選抜・育成されたホールクロップサイレージ用の水稲品種である。2000年に関東飼206号と付名され、地域適応性や飼料適性が検討されてきた。2002年に水稲農林378号として登録され、「クサホナミ」と命名された。この品種の特徴は以下の通りである。1. 出穂期は「日本晴」より9日程度遅く、"晩生の早"に属する。稈長は「日本晴」よりやや長い"長"で、一穂粒数の非常に多い極穂重型の草型を持つ。強稈で耐倒伏性は強く、湛水直播栽培での転び型倒伏にも強い。2. 収量性が高く、育成地での移植栽培では標準品種の「日本晴」より地上部全重で約17%、子実重で約25%多収である。また、ほとんどの試験地、栽培様式において、地上部全重、子実重とも標準品種の収量並かそれを上回り安定して多収を示す。3. ホールクロップ乾物中の可消化養分総量(TDN)含量は60%程度であり、食用水稲品種並みである。ホールクロップサイレージの飼料価値ならびに産乳成績は輸入チモシー乾草にやや優り、粗飼料として適性を持つ。4. いもち病には真性抵抗性を保有し、圃場抵抗性程度は不明である。白葉枯病抵抗性は"中"である。縞葉枯病には抵抗性を示す。5. 以上の多収性、強稈性、直播適性、飼料適性などの特性から、「クサホナミ」はホールクロップサイレージでの飼料利用に適すると考えられる。