著者
永江 弘康
出版者
千葉県農業試験場
雑誌
千葉県農業試験場研究報告 = Bulletin of the Chiba-Ken Agricultural Experiment Station (ISSN:05776880)
巻号頁・発行日
no.27, pp.121-139, 1986-03 (Released:2011-03-05)

梨需要の急増,労働集約的な新品種の導入にともなう経営構造,技術構造の再編方向を,新しい部分技術の格付け,適期作業の遂行,収穫期間の前進・拡大等の3つの視点によって明らかにした。1. 戦後40年の千葉県の梨生産は,復興・作付拡大期(昭和41年以前),維持・安定期(昭和42年~53年頃),品種更新期(昭和54年以後)の3期に分かれる。42~53年の単収(10a当たり収量)は平均3197.9kg,標準偏差221.6kgできわめて安定していた。2. 新品種,新技術の導入は,家族労働力,経営耕地面積,梨園面積,それまでの品種構成,品種別の団地集積等との関係が大きい。生産力・品質等級実績・新品種導入実績等により発展地区30戸,停滞地区24戸(いずれも一つの生産組織)を対象にして調査し,分析した。1戸当たり梨園面積は両地区平均84~90a,家族労働力3人。品種構成比は,発展地区では「幸水」4,「豊水」2,「長十郎」1,「二十世紀」3であり,停滞地区の中規模以下では同じく3:2:3:2(「二十世紀」ではなく「新高」)であり,停滞地区の大規模梨作では「幸水」5,「豊水」3,「新高」2である。3. 「二十世紀」を保有する発展地区では労働集約的な新品種「幸水」の適期作業(とくに摘蕾,摘果)に対応できるが,労働粗放的な品種しか保有していない停滞地区では作業の遅れがある。このことが収量に影響する。発展地区の「幸水」10年生単収は2162kg(最高2,717kg),停滞地区では1884kg(最高2200kg)である。4. 高収量,高品質を新品種において実現する場合には,作業規模,作業者,時間標準,作業の格付け・序列,作業回数を確認し,季節性と作業開始時間を重視することが必要である。これを実現できる適正な品種構成は,労働力2.5人で,「幸水」35a(27%),「豊水」35a(27%),「長十郎」「新高」60a(46%)計130aになるであろう。5. 新品種「幸水」育成価は所期の収量を実現できるか否かによって異なる。大苗利用・標準収量(発展地区)の場合にはわずか2年で成園となるが,低収量(停滞地区)・低価格の場合には15年以上を要する。したがって新品種,新技術の導入に際して梨作経営の6割以上が「増収・品質向上」「基本技術の習得」が必要であると認識している。