著者
趙 亜男
出版者
埼玉大学大学院人文社会科学研究科
雑誌
日本アジア研究 : 埼玉大学大学院人文社会科学研究科博士後期課程 (学際系) 紀要 (ISSN:13490028)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.137-161, 2017-03

江戸時代の茶道において、千利休の教えと見られるものを和歌の形にした「利休道歌」が世に伝わり、よく知られている。現在にいたっても、「利休道歌」「利休百首」の注釈書類が相次いで出版されており、茶の初心者や茶人たちに愛用されている。小論は、これまで検討されていない東京芸術大学附属図書館所蔵の『利久居士茶道百首』(以下芸大本と称す)を研究対象として、その成立年代と構成を紹介したうえ、他伝本との校合を通して、芸大本と「紹鴎百首」との関係を分析し、本伝本の意義を試論した。七伝本と校合した結果、芸大本は「紹鴎百首」系統の諸伝本と同じ歌を数首持っていることから、「利休百首」系統より「紹鴎百首」系統により近いことが分かった。そして、筒井紘一氏を代表とする先学たちの研究成果を踏まえて、小論は次の説を提示する。芸大本は、千利休以降茶の湯が遊芸化から精神化へと発展している江戸中後期、ある流派の茶人が侘茶の宗旨を目指して千利休の名を冠して制作したものである。現存諸本のなかに百首に整っている最古の写本として、そこには作者の編集意識が現れているではないかと考える。最後に、茶道百首の研究に新しい情報を提供することと、茶道流派における家元システムの成立と発展に対する研究に、芸大本の意義があることを論じた。