著者
大石 時子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
看護薬理学カンファレンス 日本薬理学会 (ISSN:24358460)
巻号頁・発行日
pp.S2-1, 2022 (Released:2022-12-12)

厚生労働省の 2022 年 4 月の医療施設調査では、2020 年 9月、無痛分娩の実施率は全分娩の 8.6%であった。日本産婦人科医会の調査では 2007年、2.6%、2016 年 6.1%、であったので、この15 年間で 3.3 倍となっている。後半の増加率が高く、 特に診療所よりも病院で急増している。コロナ禍での孤独な出産の影響があるとも 言われている。 "無痛分娩"が増えているのは、医療者が勧めているからなのか、それとも女性 が選択しているのか? 女性は、何を求めて、何を通して情報を得て、"無痛分娩"を するのか? "無痛分娩"とは硬膜外麻酔分娩のことを主に言うが、その内容を知っている女 性は少ないのではないかと思われる。何の薬剤が使用され、どこに効くのか、赤ちゃ んへは胎盤を通過して影響があるのか、母乳にはどうなのかを始めとして、メリット、 デメリットはどうなのか?また、硬膜外麻酔に伴う処置(点滴、バルーンカテーテル、禁食、自動血圧計、足 が動かない等)によって、どんな分娩の様子になるのかをイメージできる女性も少な いのではないだろうか。「無痛分娩の実態把握及び安全管理体制の構築についての研究」の代表者とし て、硬膜外麻酔分娩に伴う事故を調査した海野信也医師は、無痛分娩とは「産痛を 除去した自然経腟分娩」ではない。侵襲的医療行為を伴う、自然経腟分娩とは異な るリスクを有する分娩様式である、と定義している。女性たちは「産痛を除去した自然経腟分娩」と思っているようにも思われる。女 性への情報はどのように流れ、女性はどのように選択しているのか(または選ばされ ているのか)?自然分娩とは違う医療介入の多い硬膜外麻酔分娩を助産師や看護職はどのよう に受け止めたらよいのか、そして、それを選ぶ女性たちに助産師や看護職はどのよ うに関わればよいのか? 硬膜外麻酔分娩をする女性のケアはもとより、硬膜外麻酔 に頼らないですむような女性の力を育むことも必要なのではないのか?このシンポシウムでは、まず、evidenceに基づいた硬膜外麻酔分娩の作用、副作 用について解説し、上記のような論点を整理し、助産師や看護職として、どのように 捉え、何をしていくことが課題なのか、痛みを医療によって除くことを選ぶことによっ て、女性、家族、社会が得るもの、失うものは何かを皆さんと考えてみたい。