著者
宮野 加奈子 吉田 有輝 坂本 雅裕 上園 保仁
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
看護薬理学カンファレンス 2020東京 (ISSN:24358460)
巻号頁・発行日
pp.ES-2, 2020 (Released:2020-12-28)

オキシトシンは、9 つのアミノ酸から構成されるペプチドホルモンであり、子宮収縮を促すホルモンとして 1906 年に発見された。オキシトシンは視床下部室傍 核(PVN)および視索上核(SON)で合成後下垂体後葉から分泌され、当 初は "出産や子育てに関連するホルモン" として、子宮収縮や乳汁分泌などの 生理作用をもつと考えられていた。しかしその後多くの研究により、オキシトシン は母性・社会行動の形成、抗ストレス、摂食抑制など非常に幅広い生理作用 を持つことが明らかとなり、"愛情ホルモン" あるいは "幸福ホルモン" と呼ばれ るようになった。漢方薬「加味帰脾湯」は 14 種類の生薬で構成されており、神経症、精神 不安、不眠症、貧血などに対して処方され、その効果はオキシトシンの作用と 一部共通している。しかしながら、加味帰脾湯がオキシトシンシグナルに及ぼす 影響については不明である。本講演では、加味帰脾湯がオキシトシン受容体な らびにオキシトシン分泌に関わるイオンチャネルにどのような作用を有するかとい う私たちが最近行っている研究の一部を紹介する。加えて近年、オキシトシンは PVN および SON に加え、脳や脊髄に投射しているオキシトシンニューロンからも分泌され、鎮痛作用を有することが明らかに されてきた。オキシトシンの鎮痛作用には、オキシトシン受容体を介する経路お よび受容体を介さない経路が報告されている。後者はオキシトシン受容体に似 た構造をもつバソプレシン1A 受容体、ならびに痛みのセンサーのひとつである transient receptor potential Vanilloid 1 (TRPV1) などが関与しているこ とが報告されている。加えてオキシトシンの鎮痛作用に、オキシトシンによる内 因性オピオイドの増加、ならびに オ オピオイド受容体の関与が報告されており、 オキシトシンの鎮痛作用にオピオイドシグナルの関与が示唆されている。しかし ながら、オキシトシンのオピオイドシグナルに対する詳細な作用については不明 である。そこで、加味帰脾湯のオキシトシンシグナルに対する作用に加えて、オ キシトシンのオピオイド受容体を介するシグナルへの作用について、当研究室で の研究成果を紹介する。本講演がオキシトシンの多彩な作用を説明する一環 となれば幸いである。
著者
大石 時子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
看護薬理学カンファレンス 日本薬理学会 (ISSN:24358460)
巻号頁・発行日
pp.S2-1, 2022 (Released:2022-12-12)

厚生労働省の 2022 年 4 月の医療施設調査では、2020 年 9月、無痛分娩の実施率は全分娩の 8.6%であった。日本産婦人科医会の調査では 2007年、2.6%、2016 年 6.1%、であったので、この15 年間で 3.3 倍となっている。後半の増加率が高く、 特に診療所よりも病院で急増している。コロナ禍での孤独な出産の影響があるとも 言われている。 "無痛分娩"が増えているのは、医療者が勧めているからなのか、それとも女性 が選択しているのか? 女性は、何を求めて、何を通して情報を得て、"無痛分娩"を するのか? "無痛分娩"とは硬膜外麻酔分娩のことを主に言うが、その内容を知っている女 性は少ないのではないかと思われる。何の薬剤が使用され、どこに効くのか、赤ちゃ んへは胎盤を通過して影響があるのか、母乳にはどうなのかを始めとして、メリット、 デメリットはどうなのか?また、硬膜外麻酔に伴う処置(点滴、バルーンカテーテル、禁食、自動血圧計、足 が動かない等)によって、どんな分娩の様子になるのかをイメージできる女性も少な いのではないだろうか。「無痛分娩の実態把握及び安全管理体制の構築についての研究」の代表者とし て、硬膜外麻酔分娩に伴う事故を調査した海野信也医師は、無痛分娩とは「産痛を 除去した自然経腟分娩」ではない。侵襲的医療行為を伴う、自然経腟分娩とは異な るリスクを有する分娩様式である、と定義している。女性たちは「産痛を除去した自然経腟分娩」と思っているようにも思われる。女 性への情報はどのように流れ、女性はどのように選択しているのか(または選ばされ ているのか)?自然分娩とは違う医療介入の多い硬膜外麻酔分娩を助産師や看護職はどのよう に受け止めたらよいのか、そして、それを選ぶ女性たちに助産師や看護職はどのよ うに関わればよいのか? 硬膜外麻酔分娩をする女性のケアはもとより、硬膜外麻酔 に頼らないですむような女性の力を育むことも必要なのではないのか?このシンポシウムでは、まず、evidenceに基づいた硬膜外麻酔分娩の作用、副作 用について解説し、上記のような論点を整理し、助産師や看護職として、どのように 捉え、何をしていくことが課題なのか、痛みを医療によって除くことを選ぶことによっ て、女性、家族、社会が得るもの、失うものは何かを皆さんと考えてみたい。