著者
池田 理知子 鄭 偉
出版者
国際基督教大学
雑誌
社会科学研究所モノグラフシリーズ (ISSN:13481487)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.1-109, 2006-03

本研究は、日本と中国の時間意識を比較し、いかにその差が対人関係や具体的なコミュニケーション現象に反映しているのかを考察するものである。 J.リフキンが「時間の指紋」と呼んでいるように、それぞれの文化には固有の時間認識があり、われわれの価値観や行動にも反映されている。日本と中国にも固有の時間が流れているはずであり、それは生まれたときから変わることのない指紋のように、双方の歴史を貫いている。また、グローバル化による均質化の流れが個々の文化の多様性といかに折り合いをつけていくのかという問題も本研究の考察の対象である。グローバル化の流れの中で、時間に追われせわしない生活を強いられつつあるという状況は、日本と中国の現代人に共通する問題でもある。時計の時間だけでない重層的な「時・時間」を知ることで気づく新たな視点を、本研究は提示する。具体的には、記号論・解釈学的アプローチをとることによって、日本と中国の時間意識の差を通時的に検証していった。その際、二元論的枠組みを超える理論として注目を集めているJ.ゲブサーのプラス・ミューテーション理論を援用し、現在の日本と中国の時間意識の重層構造を、暦と機械時計の歴史を紐解くことによって明らかにした。最近の政治・経済情勢および民間レベルでの交流を考えると、緊密な関係を結ばざるを得ない日本と中国において、時間意識の差から浮かび上がる本質を知ることは、お互いの理解を深めるための一助となるであろう。