著者
綱島 洋之
出版者
実践総合農学会
雑誌
食農と環境
巻号頁・発行日
no.16, pp.99-114, 2015-10

社会的課題の解決に資する就労機会の創出は, 社会的包摂の現実的な手段であると考えられる。そこで, ホームレス高齢労働者や若年者就労支援事業体などとともに, 農地の再生と維持を試みるアクションリサーチを開始した。社会的包摂の理念を踏まえるのであれば, 人手不足の解消策として以上の意義を働き手が実感できるか否かが問われる。本研究では, 一定期間経過後に, このような就労機会の意義について参加者に意見を求めた。ホームレス高齢労働者は, ホームレス状態のまま就労できる場を求めていた一方で, 若者を指導する役割を果たしていた。若年者就労支援に農作業を取り入れることは, 利用者が自己肯定感を獲得したり, 利用者の適性を可視化したりできるなど, 就職活動の前段階として有効である。一方で, 労働市場の現状に適応するための手段として農作業を利用する就労支援に疑問を感じる若者もいた。かれらは, 賃金労働を通してではなく直接的に, 生活必需品の一部を自力で生み出したいと考えていた。以上の結果は, 参加者の就労意欲が, ホームレスおよび若者を対象とした「自立支援施策」において想定されているよりも多様であり, そして, 農業分野における就労機会を提供することで応答可能であることを明示している。ただし, 就労支援のために農作業の機会を利用することの二律背反性を克服することは今後の課題として残されている。