著者
Takahiro ENDO
出版者
THE JAPANESE ASSOCIATION OF HYDOROLOGICAL SCIENCES
雑誌
Journal of Japanese Association of Hydrological Sciences (ISSN:13429612)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.95-108, 2010 (Released:2011-03-25)
参考文献数
44
被引用文献数
1 2

地盤沈下は,東京,大阪,バンコクなどアジアの大都市で時間の遅れを伴って-経済成長の進展具合に応じて-繰り返し生じている。本論の目的は,タイのバンコクを事例に,地盤沈下対策における政府活動の必要性を明らかにし,その具体的役割を検討することである。そもそも,地盤沈下対策に政府が必要となる理由は,地盤沈下が集合行為問題の様相を呈し,民間部門における自発的な協働では解決が期待しにくいためである。特にバンコクにおいては,集団規模,沈下の速度,上水道建設の費用の高さといった要因が自発的協働による解決を困難ならしめた。バンコクでの地盤沈下の鎮静化にあたって政府が果たした役割とは,(1)地下水法を制定し地下水採取に許可制を導入したこと,(2)モニタリングに基づく地下水規制区域を策定したこと,(3)地下水採取に対して料金制度を導入したこと,(4)上水道網を整備したこと,に大別される。要約すれば,地下水の汲み上げを規制すると同時に,その代替物を提供することによって,地下水から地表水への水源転換を促したことといえる。