著者
利部 慎 嶋田 純 島野 安雄 樋口 覚 野田 尚子
出版者
THE JAPANESE ASSOCIATION OF HYDOROLOGICAL SCIENCES
雑誌
日本水文科学会誌 (ISSN:13429612)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.1-17, 2011 (Released:2011-04-27)
参考文献数
26
被引用文献数
15 9

阿蘇カルデラ内を水文化学的な特性に基づいて4 地域に区分し,その4 地域から得られた地下水の滞留時間を明らかにすることで,阿蘇カルデラ内の地下水流動機構を明らかにした。安定同位体比特性および水質特性,さらに水素安定同位体比から推定された涵養標高により,カルデラ内を外輪山山麓系:領域( I ),中央火口丘群系:領域( II ),カルデラ低地系不圧地下水系:領域( III ),カルデラ低地系自噴井系:領域( IV )の4 領域に区分した。領域( I )と( III )では推定される涵養標高が相対的に低く,溶存成分量の少ないCa-HCO3 型であるため,涵養から湧出までの経路は比較的短い流動規模の小さなグループと考えられた。一方,領域( II )と( IV )は,推定涵養標高が高く溶存成分量の多いSO4 成分に富んだ水質組成であるため,中央火口丘群で涵養された流動規模の大きなグループと考えられた。また,年代トレーサーであるトリチウムやCFCs を用いて地下水の滞留時間の推定を行った。まず,トリチウムによるピストン流での滞留時間は全領域において約3 年未満と推定された。そして,トリチウムの濃度履歴を利用した詳細な滞留時間の推定が,領域( I )および領域( II )で行うことができ,領域( I )ではピストン流の流動形態で約20 年の滞留時間と推定され,CFCs の分析結果と整合的であった。一方,領域( II )ではトリチウムとCFCsにより推定された滞留時間に相違がみられたが,これは流動形態が混合流によるものと考えられ,その際に推定された平均滞留時間として約3 年が得られた。このような長い滞留時間は、水文化学特性や推定された地下水流動機構と調和的なものである。なお,領域( III )では人為起源によるものと考えられる過剰付加により,CFCs による滞留時間の推定を行うことができなかった。また,領域( IV )ではCFCs によるピストン流の滞留時間が約2 年と推定されたものの,溶存成分量が多いことや推定涵養標高が高いことを考慮すると,より長い滞留時間を有している可能性を否定できないため,今後他の年代トレーサーとの比較を行うことが期待される。
著者
新井 正
出版者
THE JAPANESE ASSOCIATION OF HYDOROLOGICAL SCIENCES
雑誌
日本水文科学会誌 (ISSN:13429612)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.35-42, 2008 (Released:2011-03-25)
参考文献数
56

City is one of the important anthropogenic modifications of land; therefore its hydrological aspects must be studied from the view point of environmental change. Extension of impermeable land surface modifies the runoff processes and water circulation of the area. City needs much clear water for the citizen and many kinds of activities, although the polluted water must be eliminated possibly soon. Therefore, urban hydrology should be studied from two stand points, namely, modification of runoff by built-up area and transport of municipal waters. In this article, these factors are explained based on examples in Tokyo area. It is also emphasized that cultural and historical aspects are also necessary to understand the water environment of a city.
著者
石井 吉之
出版者
THE JAPANESE ASSOCIATION OF HYDOROLOGICAL SCIENCES
雑誌
日本水文科学会誌 (ISSN:13429612)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.101-107, 2012 (Released:2013-04-16)
参考文献数
15
被引用文献数
3 1

降雨と融雪が重なった時の出水現象を明らかにする目的で,北海道の2 つの流域で研究が行なわれた。積雪内部の流出過程に着目した研究では,積雪底面から流出する水の90%以上が積雪内部に貯留されていた水であり,晴天時でも降雨時でもこの割合に大きな違いはなかった。降雨を伴った融雪出水時に現れる河川流量の大きなピークの成因を調べた研究では,増水前の初期流量がもともと大きいことや,降雨量に融雪量を加えた流入強度が大きいことが要因であることが明らかにされた。さらに,雪面上に著しい大雨があった場合を想定した模擬降雨実験では,1m2 の雪面上に6 時間かけて200L の模擬降雨を散布したが,積雪底面からの流出水は現れなかった。このことから,雪面上に多量の水が供給されると積雪内における水平方向の水の流れが予想以上に顕著になることが明らかになった。降雨と融雪が重なった時の出水現象を解明するためには,積雪下の地表面にどのような水供給があるかを知ることが鍵となり,積雪ライシメータを用いた積雪底面流出量の観測例を今後も増やしていく必要がある。
著者
飯島 慈裕 石川 守 ジャンバルジャフ ヤムキン
出版者
THE JAPANESE ASSOCIATION OF HYDOROLOGICAL SCIENCES
雑誌
日本水文科学会誌 (ISSN:13429612)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.119-130, 2012 (Released:2013-04-16)
参考文献数
18
被引用文献数
1 4

モンゴル北部の山岳地域は,北向き斜面にカラマツからなる森林,南向き斜面には草原が広がる植生の漸移帯(エコトーン)をなしている。この森林-草原斜面は,永久凍土・季節凍土の分布と重なり,明瞭な水循環過程のコントラストを示す。本研究は,ヘンテイ山脈トーレ川上流域で2004 年から開始した森林・草原斜面での各種水文気象の観測結果から,植物生長開始と生長期間の蒸散量の季節変化に影響する凍土-水文気象条件の対応関係の解明を目的としている。森林斜面からの蒸散量は,6 月~ 7 月上旬の雨量が7 月の土壌水分量を規定し,その年の蒸散量の最大値と良い対応関係が認められた。また,カラマツの開葉は消雪とその後の凍土活動層の融解との関係が深く,生育開始の早遅も蒸散活動の年々変動に影響している。この森林では,降雨の時期に加えて,消雪時期と凍土融解(活動層発達)時期の早遅が組み合わさることで,植物生長と蒸散量の季節変化と変動量が影響を受けていることが示された。2006 年夏季の流域水収支から,森林は草原に比べ蒸発散量が約半分に抑えられ,活動層内の土壌水分量と合わせて,河川流量に対応した水資源を確保している様子が明らかとなった。すなわち,モンゴル山岳地域の凍土-森林の共存関係は,流域水資源の維持に重要な役割を果たすと考えられる。
著者
長瀬 和雄
出版者
THE JAPANESE ASSOCIATION OF HYDOROLOGICAL SCIENCES
雑誌
日本水文科学会誌 (ISSN:13429612)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.109-120, 2010 (Released:2011-03-25)
参考文献数
11

今日,世界の多くの国々では,安全な水道水を利用できない時代である。年降水量の平均値が高い日本は,降水と地下水に恵まれた国であると言える。我々日本人は注意して地下水を飲用してきたが,日本は地下水管理の面で決して先進国とはいえない。本稿では,神奈川県秦野市を地下水管理の成功例として取り上げ,その地下水管理の方針を示す。秦野市ではこれまで長年にわたって神奈川県温泉地学研究所及び秦野市が研究活動と行政を通して地下水の管理の方法を開発してきた。地下水は土地と深く結びついていて,その管理にはそこに生活する人々の意志が十分反映されなくてはならない。もし我々が地域の水循環や環境をもっと詳しく調べれば,効果的に地下水を利用することができる。
著者
Takahiro ENDO
出版者
THE JAPANESE ASSOCIATION OF HYDOROLOGICAL SCIENCES
雑誌
Journal of Japanese Association of Hydrological Sciences (ISSN:13429612)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.95-108, 2010 (Released:2011-03-25)
参考文献数
44
被引用文献数
1 2

地盤沈下は,東京,大阪,バンコクなどアジアの大都市で時間の遅れを伴って-経済成長の進展具合に応じて-繰り返し生じている。本論の目的は,タイのバンコクを事例に,地盤沈下対策における政府活動の必要性を明らかにし,その具体的役割を検討することである。そもそも,地盤沈下対策に政府が必要となる理由は,地盤沈下が集合行為問題の様相を呈し,民間部門における自発的な協働では解決が期待しにくいためである。特にバンコクにおいては,集団規模,沈下の速度,上水道建設の費用の高さといった要因が自発的協働による解決を困難ならしめた。バンコクでの地盤沈下の鎮静化にあたって政府が果たした役割とは,(1)地下水法を制定し地下水採取に許可制を導入したこと,(2)モニタリングに基づく地下水規制区域を策定したこと,(3)地下水採取に対して料金制度を導入したこと,(4)上水道網を整備したこと,に大別される。要約すれば,地下水の汲み上げを規制すると同時に,その代替物を提供することによって,地下水から地表水への水源転換を促したことといえる。