著者
岩上 はる子
出版者
滋賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、日本におけるブロンテ受容の歴史をたどることにある。ブロンテ姉妹が日本でどのように紹介され受容されたかを、明治の紹介の段階から昭和初期に全訳が出版されるまでを、文芸雑誌、学術雑誌、新聞その他の一次資料を基に跡づけ、最後に翻訳の検証を通して日本におけるブロンテ姉妹の受容の分析を試みた。『ジェイン・エア』を中心に取り上げた。明治期については『女学雑誌』におけるブロンテ関連記事を拾い、『ジェイン・エア』が良妻賢母思想を背景として紹介され、受容されてきたことを跡づけた。次に、水谷不倒による最初の抄訳「理想佳人」を検証し、不倒訳の換骨奪胎の視点が当時の日本の読者に馴染みのない個人の意識、自我、恋愛に向けられていたことを明らかにした。大正期については、『英語青年』『英語研究』などの専門誌に掲載された対訳・註釈を検討した。それらは欧・米における主だった批評動向を反映する一方で、日本独自のものとして訓詁学的な研究により、後の翻訳への道筋を開くことになる。なかでも岡田みつによる研究社英文学叢書のJane Eyreは、初めての女性によるもので、全編にわたっての正確で解釈に踏み込んだ註釈によって、後の全訳に大きな影響を与えたことを検証した。最後に十一谷義三郎の全訳『ジェイン・エア』を検討した。新感覚派の小説家として知られる十一谷が、一方で優れた英文学研究者でもあったことを明らかにし、強い自我意識をもつジェインの造形に「孤独」「自我」「生命への礼賛」などの十一谷文学の本質に通底するものがあることを指摘した。受容研究の一つの方法として翻訳の検証も有効であることが立証された。明治期の最初の出会いから昭和初期に全訳が完成するまでのほぼ半世紀のブロンテ受容史をたどることで、日本人がいかに異文化を受け入れ咀嚼し血肉化してきたかを概観でき、有益な研究であったといえる。

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日本では水谷不倒生による「理想佳人」(1896年) https://t.co/aDY72TWpaH さすがに明治時代だから換骨奪胎の訳なのか https://t.co/tdwppCDmC0 (日本ではホームズ作品の導入が早かったものの、本間と和田になってるようなの)

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