著者
和田 健
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は、戦時体制下にさしかかる1930年代後半を中心に、生活習俗に関わる改善指導が、どのような文脈のもとで策定されていたかを検討するものである。特に農山漁村経済更生運動における更生計画書に与えた生活改善事項記述の影響を考察することを中心に行った。そのため、生活改善同盟会が刊行した指導書について、分析を行っている。本年度は昨年度に引き続き、通俗教育の官製運動である生活改善運動のなかで刊行された『生活改善の栞』および『農村生活改善指針』に記載された衛生および衣食住に関わる生活改善指導の記述について考察を行った。『生活改善の栞』はおもに、都市部に居住する中産階層を対象とした生活のあり方を示したものであり、例えば衣食住に関わる記述において、特に婦人服、児童服の奨励と指導、また食に関しては、例えば食べきれない食事の提供をやめることを提唱、住環境については、下水関係のあり方と間取りについて詳細に改善事項を提案している。『農村生活改善指針』でも、そのような衣食住の生活改善について記されているが、特に衛生面での記述に紙幅を割いている。例えば寄生虫が堆肥を経由して野菜などの収穫物により蔓延しないよう、堆肥のあり方と便所の改善(内務省式改良便所)については詳細に記している。いわゆる不衛生から来る病気(回虫、トラホームなど)の予防のあり方について詳細に記している。本年度は、両指導書に見られる「衛生」に関わる記述を中心に比較して、人々の日常生活に「衛生思想」が埋め込まれる感覚について、および「衛生的」とされることばの受容について、あわせて考察を行った。また生活改善同盟会設立の趣旨の中に「国民の覚醒を促し思想を善導する」と記されているが、「思想を善導」することと、旧来より人々が行ってきたさまざまな民俗慣行との関わりについて衛生思想の観点から分析を行った。

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