出版者
『遡航』刊行委員会
雑誌
遡航 (ISSN:27581993)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.2, pp.2-21, 2022-06-30 (Released:2023-04-23)

本稿では 1970 年代後半に青い芝の会が主張した「健全者手足論」と呼ばれる言説について、会の障害者らがそれをどのように議論していたのかを一次資料を用いて検討した。「健全者手足論」とは、青い芝の会の活動への健全者組織による介入を完全に退けるために、健全者(組織)の口出しを一切禁じようとしたものである。 健全者手足論を巡る主たる争点は2つあった。第一に、健全者をどのように位置づけるのかという点であった。これには告発糾弾型の闘争か、そうではない別のあり方かという運動の方向性の違いが背景にあったと考えられる。第二に、「運動」と「生活」をどのように位置づけるのかということである。健全者手足論の肯定派は「運動」と「生活」を切り分けて考えようとしたが、それをどのように位置づけているのかという質問やそれはそもそも切り分け得ないものだとする主張が懐疑派によってなされた。
著者
山口 和紀
出版者
『遡航』刊行委員会
雑誌
遡航 (ISSN:27581993)
巻号頁・発行日
vol.2023, no.7, pp.37-58, 2023-04-30 (Released:2023-06-10)

日本で唯一の法的に実施が定められたウェブアーカイブである、国立国会図書館による「ネットワーク系電子出版物の制度的収集事業(通称 WARP)」がどのような議論を経て形成されたのかを論じた。国立国会図書館の納本制度調査会/審議会の議事録から、議論を整理した。第一に、ウェブアーカイブを既存の納本制度の枠組みの中に入れるか/新たな制度を外側に設けるかが議論の中心となり、新たな枠組みを設けることが決まったことを明らかにした。第二に、公的機関/民間を問わない包括的なウェブアーカイブ事業の形成も視野には入っていたが、2000 年代初頭の議論の中で「公的機関」のみを制度的収集の対象とすることが決まったことを明らかにした。