著者
志賀 健司
出版者
いしかり砂丘の風資料館
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2012

目的:石狩湾沿岸の海岸線に平行な波状地形、花畔砂堤列は、過去6000年間に徐々に陸化していく過程で形成された(松下1979)。現在は海岸林内だけに20列ほどの連続した砂堤列が残されている。繰り返す砂堤の形成には周期的な気候変動が関係している可能性があるため、本研究では、海岸林内の砂堤列の数や間隔を計測すること、堆積物から古環境を推定すること、を目的とした。方法:海岸林内を踏査し、春季に出現する融雪プール(雪解け水の水たまり)の分布を詳細に調べた。融雪プールは砂堤間低地に形成されるため、波状地形を反映している。また、砂堤間低地の2ヶ所で柱状堆積物を採取し、堆積物中の珪藻遺骸を観察し、植物片の放射性炭素年代を測定した。また、同様の砂堤列地形が見られる北見市常呂町の海岸部において、比較観察を実施した。成果:海岸林内で融雪プールもしくは明瞭な谷地形を精査したところ、海岸線と直交方向の長さ450m内に21の低地が見られた。平均すると砂堤・低地は21m間隔で繰り返していることが明らかになった。海岸線から約400m内陸の地点で採取した堆積物は、上部14cmは泥炭質砂、それより下部は中粒砂で構成されており、堆積環境は海浜~砂丘環境から湿地的環境へ移行したことがわかった。上部の泥炭質砂中では珪藻遺骸群集は淡水生種~陸生種で構成されており、今回の研究では、群集には明瞭な周期的変遷は確認できなかった。下部の砂層からは珪藻殻は検出されなかった。地表下6.5cmの木片の炭素年代は230年前(±30年)であった。平均堆積速度は28cm/1000年となり、この地点が砂丘・海浜的環境から林内の湿地的環境へと移行したのは約500年前であったことが判明した。
著者
志賀 健司
出版者
いしかり砂丘の風資料館
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

目的:2005年から2008年、北海道の日本海沿岸では秋季に暖流系漂着物(温帯~熱帯海域や沿岸に生息する生物等)が多く見られた。その代表であるアオイガイの石狩湾における大量漂着の大きな要因は高い海面水温と北西季節風だが、この関係は本州~九州の日本海側でも成り立つのか。その解明を本研究の目的とした。手法:石狩湾中央部の砂浜を定期的に踏査し、特徴的な漂着物の数量と年間の変動を記録した。同時に気象・海況観測を実施した。アオイガイの漂着状況を北海道と本州~九州とで比較するため、下北(津軽海峡)、新潟、福岡の3地域で、漂着が予想される12月~1月、砂浜の踏査と現地の水族館関係者や漂着物研究者からの聞き取り調査を実施した。成果:石狩湾のアオイガイ漂着はすでに2008年には減少の傾向を見せていたが、2009年は一層減少した。2000年代後半に見られた大量漂着現象は3~4年間で終息したことが確認された。一方、12月初旬の下北では長さ約5kmの砂浜の2日間の踏査で、100個体近い大量のアオイガイ漂着を確認した。それに対して12月中旬の新潟と1月中旬の福岡では同様の調査で数個体しか見られなかった。過去5年間の調査結果から、石狩湾でアオイガイ漂着がもっとも増加するのは海面水温が15~16度の時だとわかったが、今回調査を実施した地域・時期の水温がこの範囲内だったのは下北だけで、新潟と福岡ではこの範囲から外れていた。このことから、アオイガイ漂着の水温条件は地域を問わないことが明らかになった。また、下北、新潟、福岡での過去のアオイガイ大量漂着は1960年代と1980年代に多かったが、2000年代後半は3地域では漂着は目立って多くはない。北海道で見られた大量漂着は津軽海峡以北に限定された現象であったことが明らかになった。