著者
坂口 けさみ 中島 邦夫
出版者
三重県立看護短期大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

プロラクチンは、単に乳腺発育や乳汁分泌維持作用を示すのみでなく母性行動の誘起、維持にも重要な役割を有するホルモンであることが明らかになってきた。今年度私達は、乳仔接触刺激による非妊雌及び雄ラットの母性行動・父性行動を観察すると共に、脳内のプロラクチン受容体mRNAの発現について検討した。また同時に血中プロラクチン濃度の変化についても検討を加えた。雌及び雄ラットの母性行動については各ラットを収容したケージ内に生後3〜16日目の仔ラットを2匹入れ、crouching, licking, nest building, retrieval and groupingの5項目について毎日2時間、2週間仔に対する行動を観察記録した。脳内のプロラクチン受容体mRNAの発現についてはlong form及びshort formの2つの分子種を同時に特異的に検出できるように構築したRNAをプローブとするRNase Protection Assay法により行った。また血中プロラクチン濃度はEIA法により分析した。その結果、仔ラットに対する母性行動・父性行動の発現には性差なく仔ラットへの接触日数と共に、愛着行動の増加していくことが観察された。そこで乳仔に対する母性行動、父性行動が誘導された雌及び雄ラットの脳内プロラクチン受容体mRNAの発現をみると、プロラクチン受容体mRNAのlong formの発現が有意に増加していた。また母性行動、父性行動を示したラットでは明らかに血中プロラクチン濃度が上昇していた。以上、乳仔に対する母性行動・父性行動は性差を問わず、基本的に備わっている能力であり、プロラクチンは脳内プロラクチン受容体遺伝子の発現を誘導し、その結果仔への母性行動あるいは父性行動を促進することが示唆された。