- 著者
-
木村 嘉孝
- 出版者
- 公益財団法人宇部市常盤動物園協会
- 雑誌
- 奨励研究
- 巻号頁・発行日
- 2016
生息環境展示は、動物の生息環境を来園者が理解することを目的とした展示法で、放飼場に植栽や自然物などが設置されているため、飼育動物の正常行動発現にも有効であると考えられていたが、従来の檻型施設と比較しても行動発現割合が変化しないことが報告されている。一方で、動物は成長過程の環境がその後の行動特性に影響を及ぼすことから、生息環境展示方式で正常行動を発現するためには、その場所で成長することが重要である可能性が考えられる。そこで本研究では、生息環境展示において生まれ成長したシロテテナガザルの若齢個体の行動を調査し、従来の檻型施設で生まれ成長した若齢個体との比較を行った。宇部市ときわ動物園において、生息環境展示方式で飼育されている雄個体(1頭)と、檻型放飼場で飼育されている雌個体(1頭)を供試個体とし、約1歳齢時において15項目の行動カテゴリー(採食飲水・休息・身繕い・探査・個体遊戯・位置移動・社会的探査・敵対・親和・社会的遊戯・社会的摂食・授乳吸乳・抱擁・母子遊び・その他)について, 1分間隔の瞬間サンプリング法による直接観察を、それぞれの施設で行った。行動調査の結果、両個体共に活動的な行動である位置移動は1日の約50%、非活動的な行動である休息は約20%発現し、施設間で差は認められなかった。さらに、観察を行ったすべての行動項目について、檻型放飼場と生息環境展示方式で大きな違いが認められなかった。本研究では対象個体が2個体のみであることから、今後も調査を継続して行う予定ではあるが、生息環境展示で生まれて成長した個体についても、檻型施設で生まれて成長した個体と同様の行動特性であったことから、飼育動物の正常行動発現のためには、生息環境展示方式をそのまま導入するだけでは効果が小さく, 環境エンリッチメント等の試みと併用して利用していく必要があると考えられた。