著者
宮本 直樹
出版者
兵庫県警察本部刑事部科学搜査研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

【研究目的】本研究は,電気的原因による火災の解明の手段として,配線や電気器具などにアーク等によって生じた痕跡(雷気的溶融痕)と火災熱によって生じた痕跡(熱溶融痕)を判別するため,溶融痕内部に生成された空孔状況の違いに着目し,X線CT法を用いて,電線に作製した溶融痕内部の断面を全て非破壊で観察を行い,新たな鑑定手法の確立を目指すものである。【研究方法】試料として,電線(軟銅より線)の先端に直径0.5mm程度の熱及び電気的溶融痕を作成した。熱溶融痕は,ガスバーナーで溶融し、電気的溶融痕は,火炎中で短絡して溶融し,試料を作製した。さらに,作製した電気的溶融痕は,電気炉で約800℃,30分間熱を加えたものも作製した。X線CT測定は,SPring-8内BL24XU実験ハッチCにて行った。X線エネルギーは,29.5keVに設定し,検出器にX線ズーミング管(浜松ホトニクス株式会社製C5333)を用いて,試料を1°ステップで,180°撮影した。露光時間は,6秒で行った。【結果と考察】熱溶融痕と電気的溶融痕のX線CT測定の結果,熱溶融痕は,先端付近に空孔は認められたが,中央付近では認あられない。それに対して電気的溶融痕は,ほぼ全面にわたって,大小の空孔が認められ,今回の試料に対して,熱溶融痕と電気的溶融痕の空孔の状態に差が認められた。さらに,電気的溶融痕に熱を加えたものについては,酸化状態がCT画像のコントラストから判断でき,酸化が溶融痕表面からどのくらいまで浸透しているのか判断できた。このように,内部の空孔が,非破壊で観察でき,さらに空孔の情報も今までの,1断面の2次元の情報でなく,全断面,すなわち3次元の情報でわかり,溶融痕の空孔の形態が詳細に観察できた。