著者
山田 祥子
出版者
北海道大学大学院文学研究科 = Graduate School of Letters, Hokkaido University
雑誌
サハリンの言語世界 : 北大文学研究科公開シンポジウム報告書
巻号頁・発行日
pp.11-26, 2009-03-08

サハリンの先住民族ウイルタの話す言語であるウイルタ語には、ワール(Val)などを含む北の地方とポロナイスク(Poronajsk)などを含む南の地方との間で方言差があるといわれてきた(Novikova & Sem 1997: 214、池上2001[1994]: 249)。しかし、両方言を体系的に比較・対照する研究はこれまでのところ池上(2001[1994];以下、初出年は省略)に限られ、その差異の問題には依然として未解明の部分が多く残っている。現在、ウイルタ語の話者数は全員数えても20 名に満たないとまでいわれている。このような危機的状況のなか、言語の保持・伝承に対する話者や研究者たちの積年の思いが結実し、2008 年4 月この言語初の文字教本(Ikegami et al. 2008)が出版された。その内容は、南北の地方で異なる語形を併記するなど、この言語の方言差の存在をはっきりと意識させるものとなっている。これは、研究者の意図だけでなく、編集に携わった話者たちによる方言区分の認識と志向が如実に反映された結果であるといえよう。しかし、その表記のなかには一貫しない部分も少なからずあり、ここにも今後のより体系的かつ詳細な方言の記述研究の必要性がうかがわれる。そこで本稿は、今後のウイルタ語方言研究において注目すべき課題を提示することにより、本研究の意義と展望を打ち立てることを目標とする。ここでは一貫して、池上(2001)による方言分類にもとづき、南方言を基準とした北方言の相違点を述べるという流れで論を展開する。ただし、本稿で述べるいずれの相違点も今後の調査に向けての問題提起であり、あくまでも今後の検討を要するものであるということをあらかじめことわっておく。全体の構成は以下のとおりである。まず1.では、ウイルタ語の方言分類に関する先行記述を概観する。次いで2.では、池上(2001)の記述にもとづく課題を4 点取り上げ、今ある資料から再検討する。3.では、筆者自身がこれまで南方言を中心に検討してきた課題2点について、方言の観点から再解釈する必要性を提示する。最後に4.で、結論としてこれまでの論点をまとめ、今後ウイルタ語北方言の調査を行なう展望を述べる。
著者
笹倉 いる美
出版者
北海道大学大学院文学研究科 = Graduate School of Letters, Hokkaido University
雑誌
サハリンの言語世界 : 北大文学研究科公開シンポジウム報告書
巻号頁・発行日
pp.41-48, 2009-03-08

Dr. Takeshi Hattori (1909-1991) was a linguist on the Nivkh (Gilyak) language. Before the end of World War II, the southern part of Sakhalin island (south of latitude 50 degrees north) was the Japanese territory. The indigenous peoples such as Nivkh, Uilta and others, except Ainu, mostly lived in Otasu located in the suburbs of Shisuka (now Poronaisk). Dr. Hattori went to Otasu and made fieldworks. He also invited Nivkh informants to Sapporo where he lived. In 1994, a collection of Dr. Hattori's Materials (books, notebooks, recording tapes, microfilms, and photos) was contributed to the Hokkaido Museum of Northern Peoples. We call it Hattori Bunko. This paper will present the outline of the collection which shows some aspects of his research in the Nivkh language.