著者
松本 珠希
出版者
四天王寺国際仏教大学短期大学部
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

【目的】月経前に周期的に種々の症状が自覚される月経前症侯群(PMS)は、種類や程度を問わなければ生殖年齢にある女性の大半が経験する。PMSの病態に関してはまだ明らかにされていないが、PMSを伴う女性の愁訴には自律神経系の機能異常を疑わせる症状が多いことが報告されている。平成13年度の研究において、PMSの自覚症状が比較的少ない若年女性でも、卵胞期と比較した場合、黄体後期において身体的・精神的不快症状が有意に上昇し、また安静時の自律神経活動が顕著に低下していることを発見した。本年度の研究では、PMSと自律神経活動動態との関連をさらに探求するため、卵胞期と黄体期における安静時自律神経活動だけでなく、生理的負荷刺激に対する自律神経反応性もあわせて検討した。【方法】内科的・婦人科的疾患を有しておらず、喫煙習慣のない39名の女性が参加した。日誌的な方法による即時的記録法「PMSメモリー」を用い、実験期間3ヶ月を含む6ヶ月間に亘り、参加者全員に基礎体温と月経に伴う不快症状の程度を毎日記録してもらった。被験者の健康状況を詳細に検討した結果、正常月経周期をもち、且つ黄体後期において常に不快症状が上昇する健康な非肥満女性16名(20.4±0.4歳)のデータを解析対象とした。測定は、卵胞期と黄体後期に各3回、午前中の同一時間帯に行った。被験者は、起床時に床の中で舌下温を測定し、早朝第1尿を採取した後、実験室に来室した。10分間安静を保持した後、胸部CM_5誘導の心電図を連続的に仰臥位で17分間、その直後立位にて5分間測定した。自律神経活動動態の評価には、心拍変動パワースペクトル解析を用いた。【結果】基礎体温(ρ,<0.01)、クレアチニンで補正した尿中卵巣ホルモン値(ρ<0.01)、体重及びBMI(ρ<0.05)は黄体期において有意に上昇した。安静時の自律神経活動は、心拍数、Total power、Low及びVery low成分が黄体期において顕著に低下した(ρ<0.05)。体位変換による自律神経活動の変化率に関しては、黄体期で低下傾向が観察されたが、両周期間で有意な差は認められなかった。PMSメモリーから評価した月経周期に伴う不定愁訴(身体的・精神的・社会的)は、いずれの項目においても黄体期においてより多くの症状が出現し、スコアーの総計も有意に上昇していた(ρ<0.01)。【考察】20代後半から30代の女性と比較すると、月経前症候群の頻度や程度が比較的少ないと報告されている健康な若年女性においても、即時的記録法を用いることにより、黄体後期において不定愁訴の程度が顕著に増加することが確認された。PMSの発生機序に関しては、様々な仮説が報告されているが、本研究結果を考慮すると、自律神経活動及び体温・熱産生調節機能の低下もまた、黄体後期特有の複雑多岐な症状の発現に関与する可能性が示唆された。欧米と比較し、我が国ではPMSに対する認識も低く、PMS改善も含めたヘルスケア対策も十分とはいえない。本研究結果は、PMSの病態だけでなく、女性性を考慮した健康支援プログラムを究明するうえで有意義であると思われた。