著者
藤本 珠笛
出版者
埼玉大学大学院人文社会科学研究科日本語専攻内 さいたま言語研究会
雑誌
さいたま言語研究 (ISSN:2432857X)
巻号頁・発行日
no.6, pp.32-45, 2022

本稿は、複数形接尾辞「ら」「たち」の使い分けについて、コーパスを用いて使用実態の調査を行い、人称代名詞を中心にその特徴を考察するものである。調査の結果、「ら」においては三人称代名詞「彼」との共起が多く、排他性や客観性、謙譲の意などを示す性質がみられた。一方、「たち」では一人称代名詞「私」と多く共起し、同質性や親しみ表現などの特徴が挙げられた。これらのことから、「ら」「たち」の使い分けにおいて、話者と指示対象における心的距離との関連性を明らかにした。また、「彼たち」を用いにくい要因として、人称代名詞「彼」が指示代名詞から転用されたものであることを挙げ、考察を行った。以上を踏まえ、日本語学習者への指導に関して提案を行った。
著者
國谷 光
出版者
埼玉大学大学院人文社会科学研究科日本語専攻内 さいたま言語研究会
雑誌
さいたま言語研究 (ISSN:2432857X)
巻号頁・発行日
no.3, pp.1-12, 2019

本稿は、日本語におけるガノ交替現象が成立する条件を、生成文法に用いられる補文標識 C (Complementizer)のタイプという観点から新たに提案したものである。まず、ガノ交替が生じる文法環境について問題を提起し、Hiraiwa(2001, 2005)の理論に従った場合に、名詞的な要素を修飾している際のガノ交替について説明ができないということに触れた。次に、ガノ交替の先行研究について、「名詞主要部の存在を前提としている研究」と「名詞主要部の存在を前提としていない研究」に分けて概観し、問題点を指摘した。それを踏まえて、補文標識 C を C[+end]・C[-end, +T]・C[-end, -T]に分類し、ガノ交替は C[-end]が対象の名詞句を c 統御する場合に成立すると仮定した。そして、C[-end, -T]の場合についてのみ制約を設け、結果として、本稿の仮説によってガノ交替が成立する条件を正しく導くことができた。
著者
李 兮然
出版者
埼玉大学大学院人文社会科学研究科日本語専攻内 さいたま言語研究会
雑誌
さいたま言語研究 (ISSN:2432857X)
巻号頁・発行日
no.4, pp.14-25, 2020

本稿は、現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)に収録されている文学作品を調査資料として過去推量形である「~タロウ」と「~タダロウ」の使用実態を分析するものである。結果として、まず、前接する語の品詞に関して、動詞や補助動詞が前接する動詞型の場合、「~タダロウ」の使用が好まれるのに対し、名詞を代表とする名詞型の場合、「~ タロウ」の使用が好まれる傾向が見られた。また、過去推量形の意味的用法と、会話か地の文かとの間に相互関係があり、「推量」と「不定推量」は「地の文」に多く現れ、「確認要求」は「会話」に多く現れることが確認できた。最後に、経年変化について、1940 年代以降、「~タダロウ」の使用数が「~タロウ」を上回るものの、「~タロウ」もまだ使われ続けている等の特徴を明らかにした。