著者
淺野 貴之
出版者
埼玉県深谷市立深谷小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

本研究では,指導要領で取り上げられていない発展的な内容を理科授業に取り入れていくことにより,児童の科学的な思考力の育成にどのような効果を及ぼすのかについて,小学校第6学年「電流の働き」及び「水溶液の性質」,小学校第5学年「物の溶け方」の3つの単元において調査し,その結果の分析を行った。まず「電流の働き」においては,従来小学校段階では取り上げてこなかった1本の導線に流した電流が生み出す力について,児童に演繹的に学習させる群を実験群とし,学習指導要領通りの学習をさせる群を統制群として,その効果を比較した。その結果,実験群の児童は,電磁石を強くする方法を考える局面において,根拠を基に予想を立てたり,結果を考察したりすることができるようになることが明らかとなった。次に「水溶液の性質」においては,教師が与えた6つの液体の正体を確かめるための方法を考えるという発展課題に取り組ませた。そして授業中の会話プロトコルのデータとプリントなどの記述データを詳細に分析した。その結果,発展課題に取り組む中で,児童が実験方法の特徴を考えて,どの実験を行うかを決定するようになることが明らかとなった。最後に「物の溶け方」においては,児童にいろいろな物を与え,水に溶ける物と溶けない物とを分けていくという発展課題に取り組ませた。その結果,本発展課題に取り組んだ実験群の児童は,教科書に記載された発展的な学習に取り組んだ統制群の児童と比較して,水溶液かどうかを判断する際に,水溶液の定義を基に思考することができるようになることが明らかとなった。以上より,発展課題に取り組ませることにより,実験方法を決定する局面及び実験結果について予想・考察する局面における児童の科学的な思考力の育成に効果があることがわかった。