著者
鈴木 文二
出版者
埼玉県立春日部女子高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

工業生産用監視センサーとして市販されている8~16μmの中間赤外線検出素子を備えた「放射温度計」を使って観測・実験を行った。温度計は、測定範囲が広く(-50~500℃)、狭視野(2°)、デジタル出力可能、短い応答時間(1秒以下)という特徴をもつ。観測対象は、層雲、乱層雲などの雲底、月面からの熱放射である。絶対値の較正と感度分布の検定には、暖房用のハロゲンファンヒーターを用いた。下層雲の雲低温度は、高層気象の観測データと数℃の範囲内で整合性があり、凝結高度を説明するための実習に活用できることが確かめられた。一方で、光学的に薄い高層雲では、放射効率の補正を行っても十分な精度が得られなかった。しかし、可視光の全天カメラと組み合わせることによって、雲の高低と天気の変化という直感的に理解しやすい教材作成が可能である。月の観測は位相角68°~258°で行い、月表面からの熱放射の変化を捉えることに成功した。水蒸気の少ない冬場では、約0.06等の誤差で測定可能であったが、夏場では大きな吸収が起にり、概ね1.5等ほど低い値となった。また、位相角180°における月面温度の観測から放射平衡を仮定して求めた可視域のアルベドは約0.05となり、惑星科学の実習として十分に実用的であることがわかった。さらに、直径30cm弱の砂団子型の月モデルを作成した。ヒーターで表面を加熱し、熱放射を測定したところ、モデルの位相角依存性は、観測とよく一致した。ステファン・ボルツマンの式のみで解析することができるため、高校や大学の基礎実験として効果的である。
著者
鈴木 文二
出版者
埼玉県立春日部女子高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

「練り上げられた、工夫された教材」は小学校から高校までの特定な発達段階での、特別な目的に照準を合わせた感がある。そのため、個々の対象の知識は深まるが、逆に階層性が逆転したりしてしまうこともある。例えば、高校理科の授業において、星までの距離を測る方法を詳細に展開しても、見慣れた星座を作る星がどのような空間的な位置にあるのか、太陽系と銀河系の包含関係はどうなっているのか。まさに「木を見て森を見ず」という状況が散見される。次期指導要領においては、簡単な観察から始めて、より高度な科学的な研究・考察に発展させる「スパイラル学習」が重要な方法として提起されている。そこで本研究は、小学校から高校まで、共通した学習展開が可能になるように教材を統合化し、地球惑星科学、天文学の大きな柱である「時間と空間」を意識させ、なおかつ先進的な教材を配したスパイラル学習教材群を作成することを目的とする。本研究で作成した教材は、異なる発達段階における科学的リテラシーを考慮しつつ、ブラックボックス的な部分を極力少なくした。また直感的に現象を捉えつつも、現象を数値化する意欲を持たせられるものとした。さらに、入手しやすい材料・素材を用いて、専門的な知識・技能を持たない教員でも製作しやすい教材とした。今年度に開発した教材群は、以下のふたつである。(1) カシオペア座の観察、撮像から、恒星の位置、進化を知る(2) 大陸移動と古海流をシミュレートし、未来の気候を推定する引き続いて、赤外放射温度計を用いた、「雲底高度と気象変化」についての教材を作成中である。指導要領の『理数科目の前倒し実施』によって、これらの教材群は、移行措置期間中に柔軟に対処可能な教材として、その価値を見出すことができるものと考えられる。