著者
直井 雅文
出版者
埼玉県立越谷北高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

月明かりは,一般に太陽光を直接月が反射したものである。しかし,三日月より細い月を見ると,太陽光が照らしていない部分も淡く見えることがある。これは,地球で反射した太陽光が月を照らしているもので,地球照である。また月が地球の影に入る皆既月食の時にも,月は完全に暗くはならずに赤銅色にほんのり見えることが多い。これは,太陽光のなかで散乱されにくい長波長の(赤い)光が地球の大気を屈折しながら回り込み,月を照らすためである。そこで,皆既月食および地球照を通常の月明かりと比較する分光観測をして,地球大気による吸収や散乱の影響を間接的に調べることが可能になる。これらの月の光を分析するために,低分散だが小型軽量の分光器を作成して観測に望んだ。2007年は6年ぶりに皆既月食が起こったが,曇天のため観測できなかった。しかし,地球照の分光観測に成功した。その結果,地球照の成分は地球大気によるレイリー散乱と地表や雲などによる反射光で説明できることが分かった。月の軌道は地球の赤道面に対して傾いている。そのため,日本で地球照が見えるとき,月から見た地球のすがたは,太平洋が大部分を占めたり,ユーラシア大陸が大部分を占めたり,インド洋が大部分を占めたりする。リモートセンシング技術の文献等をみると,地表の物質によって反射光の分光特性が異なる。そのことを利用して,人工衛星の画像から地球環境をモニターすることが可能になっている。今回観測に成功したとき,月からは太平洋が広く見えていたため,地球照には陸域の植生や土壌の反射光はほとんど無かったようである。