著者
三浦 靖弘
出版者
大阪府立藤井寺工科高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

ため池や水路のベントス20種から抽出した粗酵素を用い、セルロース・キシラン・マンナンを基質としたプレートアッセイ法で活性を調べた。その結果、ヤゴを除くすべてのベントスから、何らかの基質に対する酵素活性が示された。淡水貝類や水生ミミズ由来酵素は、3基質に対して強い活性を示し、なかでもスクミリンゴガイの活性は群を抜いていた。また、カゲロウやトビケラもセルロースに対する活性を示し、水生昆虫がセルロースの分解・同化を通してため池に蓄積される難分解多糖の系外持ち出しを担っている可能性が考えられる。セルロースを基質とした高感度ザイモグラフィーで、各ベントス粗酵素中のセルラーゼ分子量を測定したところ、固有のバンドパターンを示すことが多かった。この結果は、各生物が独自にセルラーゼを作っている可能性を示唆している。特に同所的に生息する貝類のセルラーゼのバンドパターンが大きく異なっていたことは、貝類のセルラーゼが生息場所からの持込細菌によるものではないことを示す有力な傍証と考えられる。分光光度計の購入が実現しなかったため、酵素活性の温度依存性を7℃、17℃、27℃、37℃におけるプレートアッセイの酵素反応面積比較により調べた。熱帯から進入したスクミリンゴガイは温度に比例して活性が強くなったが、それ以外の生き物は17℃か27℃で活性が最大となった。しかし低温でもさほど活性は落ちず、冬季においても活発にセルロースが分解されていることが予想される。4種の貝、2種の魚類の糞からセルラーゼ活性が確認された。酵素は糞に強く吸着(結合)しているようで、超音波破裁を行わねば活性がでなかった。ザイモグラフィーの結果から、貝はいずれも消化管内酵素と糞内酵素のバンドがほぼ一致したが、魚については異なっていた。今後さらに厳密な結果を得るため、糞から酵素を効率的に分離する方法を検討する必要がある。