著者
志摩 典明
出版者
大阪府警察本部刑事部科学捜査研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2012

強姦等の性犯罪では睡眠薬が悪用されることが多く、このようなケースでは、被害者を対象とした睡眠薬分析が、犯罪立件への強固な物的証拠となり得る。毛髪中に取り込まれた薬物は、半年~1年以上にわたって検出可能で、根本から一定間隔毎の分画分析によって、薬物摂取歴の推定も可能である。本研究では、覚せい剤等で確立された従来の液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC-MS/MS)を睡眠薬用に最適化し、その有用性を検証する共に、従来法では頭髪を100~200本を必要とするため、検出限界の向上を試み、被害者の負担軽減を図った。更に、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-MS)によるイメージング分析法を検討し、1本の頭髪で、数日~一週間毎の摂取歴を特定できる分析法の開発を目指したものである。その結果、LC-MS/MSを用いて睡眠薬ゾルピデム単回摂取者の頭髪からゾルピデムの検出に成功した。さらに各種条件を検討することで、摂取後1ヶ月の頭髪1本からも検出することに成功した。本法を用いて、単回摂取により頭髪1本中に取り込まれる薬物量及び局在部位を検討するため、1本毎(n=15、毛根から0-2及び2-4cm)の定量分析を実施したところ、0-2cm分画からは1試料を除く全試料からゾルピデムが検出され、その濃度は27~63(42±12)pg/2-cmhair(n=14)で、比較的ばらつきがなく安定して頭髪中に取り込まれることが示唆された。また、MALDI-MSによる分析では、摂取後48時間以内の毛根から、睡眠薬としては初めて、ゾルピデムの検出に成功した。以上の結果は、日本法中毒学会(平成25年7月)で発表する予定である。