著者
智原 江美
出版者
奈良佐保女学院短期大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

1853年に中産階級を対象にイギリスで出版された『Field』誌には、ローンテニスが考案された1847年から初期のゲーム形態が整ったと思われる1883年の10年間に、358のローンテニス関連記事が見られた。特に最初の6年間は多くの読者からのさまざまな投稿記事が見られ、その内容は、統一ルールが制定され改良されていくにつれ、次第にイギリス各地及び英領植民地等での試合日程と試合結果が殆どを占めるようになった。投稿記事の内容は、初期のころは、ウィングフィールドが考案したとされている新しいローンテニスのルール・用具に関する問い合わせ等が多く見られ、次にローンテニスは誰が最初に考案したかということをめぐっての論争が主流となる。また統一ルール制定へ向けてのさまざまな意見を述べた投稿、ルールを制定あるいは改定する過程における委員会等での討議の報告なども、制定又は改定の前後には著しく増加した。1877年には『Field』誌の編集長であるJ.H.ウォルシュが全英ローンテニス・クロッケ-協会の役員となり、第1回のウィンブルドン大会を開催する。この大会における出場者募集の案内及び大会で採用されたルール等の記事、試合結果の報告も誌面に掲載された。このように『Field』誌は、ローンテニスという新しいゲームが誕生し発展する過程において、さまざまな情報を中産階級の購読者に対して広く提供してきており、その存在は非常に大きい。考案者のウィングフィールドが『Field』誌に投稿したことから購読者にこのゲームの人気が高まり、ローンテニス愛好者は『Field』誌を講読し、また編集者もかかわって経済的な収益を見込んでのト-ナメント大会をも主催するというような図式が考えられる。このような商業資本との深い結び付きは、近代スポーツの発展における典型的な例といえよう。今回は発行部数や経営に関する記録等は入手できなかったが、上記の図式を裏づけるうえでの今後の課題としたい。