著者
田中 浩
出版者
山口県立山口博物館
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

・研究目的ヤマネGlirulus japonicusは、ヤマネ科Gliridaeに属する1属1種の日本固有の小型哺乳類である。1975年に天然記念物に指定され、環境省のレッドリストでは準絶滅危惧に指定されている。主に夜行性で、樹上をおもな生活の場とし、さらに生息密度が低いため、調査が困難であった。近年、調査機器の発達と調査方法の確立により、生態や生活史特性が明らかになりつつある。しかし、関西以西の本州・四国・九州では調査はほとんどなされておらず、依然、生態や生活史については謎のままである。本州西端山口県におけるヤマネの冬眠、繁殖、個体間関係、生息環境利用などを明らかにし、ヤマネの生活史特性を解明し、東日本個体群との生活史特性の差異を明らかにしたい。・研究方法調査地に20m間隔の格子状のグリッドを設定し、その交点近くの木の1-1.5mの高さに、出入り口直径3cm、高さ20cm×幅15cm×奥行15cmの巣箱を150個設置した。利用個体調査は原則月2回以上実施した。また、トラップによる捕獲を試みた。ヤマネ捕獲個体は、すべて体重・頭胴長・尾長・後肢長・耳長などの計測を行い、幼獣以外の個体にはマイクロチップを皮下に挿入し、個体識別を行った。巣箱利用個体が撮影されるように、赤外線センサーによる自動撮影カメラや自動撮影ビデオカメラを設置し、巣箱の利用実態調査を行った。成獣には、発信機を体表面背中側に装着した。・研究成果ヤマネの巣箱利用は、4月の巣箱設置後すぐに利用する個体があらわれた。4月~11月は巣箱利用個体の撮影ができた。幼獣は9月から11月に観察され、11月の体重が15gにも達していない個体があった。早い個体は11月には冬眠に入ったが、遅い個体は12月になり冬眠した。これまで、調査が進んでいる中部地方の長野県の個体群に比べると、冬眠期間は短がかった。ヤマネが持ち込む巣材は、スギの樹皮で、細かく引き裂き持ち込んでいた。成獣と幼獣の巣の大きさに違いがあり、幼獣は単独で越冬していた。調査地には、複数個体のヤマネが生息し、繁殖・冬眠などの生態調査の適地であることがわかった。