著者
柴田 和彦
出版者
山形県立鶴岡工業高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

1、研究目的環境保全の立場から地方農村住宅の変容を考察し、その中から伝統的かつ環境共生的住まいを持続してきた事例を発見し、伝統的空間や住まい方への回帰の実態を把握すること。2.研究方法1995年から調査した庄内地方農村住宅(107件)と旧由利郡の農村住宅(2005年調査96件)の中から、伝統回帰傾向にある住宅を抽出しその特徴を明らかにする。また、新旧住宅の対比及び鶴岡市の大工業を営む人達への伝統と環境共生についての意識調査からもアプローチする。3、研究成果庄内地方農村住宅の変容過程では、瓦屋根の継続需要、板張り嗜好、和室嗜好、鍵座敷回帰などの実態が明らかになった。また、旧由利地方では昭和50年頃中門総2階が発生し、南部曲屋系中門造りの影響と思われる伝統回帰現象の存在が確認できた。環境共生住宅調査から、豊かな自然環境の中、住宅そのものが自然の一部であると感じられる事項が多く見受けられた(下見板張り、セガイ造り、縁側の多用、座敷構成、瓦屋根、無垢材の使用、古材利用、自然換気重視、漆喰壁の採用)。周囲の屋敷は、防風林、沢水の敷地内への引き込み、食用植物の栽培(山椒、柿、椎茸、孟宗竹・・)など自然環境を見事に生かしていた。新旧比較では、鍵座敷や続き間の利用、仏壇位置の固定、ハレとケの明確な空間意識、外壁の下見板張りと漆喰壁嗜好、縁側の設置、三列型・四列型の継承など前住宅の強い影響が見られた。一方、環境共生のマイナス面は、過剰な車の保有、敷地内全面舗装化、ブロック塀や単管パイプによる防風柵、樹木伐採の増加などの問題があり、特に高齢化による維持管理の困難さが浮き彫りになった。最後に、大工さんへのアンケート結果からは、現代の高気密高断熱などの手法に矛盾を感じながらも、自然環境を生かした木造住宅の造り方を継承したいと考えていることがわかった。以上により、今後の農村住宅の目指すべき姿は「昭和30年代の環境と共生した伝統的木造住宅」ではないかと考えている。