著者
棚橋 久美子
出版者
広島女子商短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

・本年度は三年間の研究期間の最終年度だったので、収集した史料を解読し、得られた成果をまとめ研究誌に発表した(「草の根女性俳人とそのネットワーク-幕末期阿波藩上田美寿を事例として-」『女性史学』第9号)。古稀を迎えて日記を書き始めた上田美寿は、趣味の俳諧を媒介として仙台・新潟から種子島にいたるまで友人がおり、日常的に文のやりとりをして情報の交換を行っていた。普段の生活では、近所の子どもたちに教え(寺子屋の女師匠)、読書し、俳諧を作り、招かれておいしい料理や酒を楽しむ。悠々自適の隠居生活が浮かび上がってきた。さらに、彼女の持つ知識や情報、それらに基づく彼女の判断は、家族や親族や地域社会など彼女の所属する諸集団の中で頼りにされ、彼女は一個の人間として尊重され尊敬された女性隠居であったことを明らかにした。彼女のありようは、女性の忍従と服従を説く江戸時代の女訓書から結ぶ女性像とは違っている。存在自体が珍しい江戸時代の女性日記を解読し、女性の生活の具体像を明らかにできた。・解読の終了していない美寿の書き残した収集史料を読み進めた。これらの史料は江戸時代の女性が書いた日記や随筆という史料評価の高いものであり、出版する準備にかかった。・美寿の父親の日記(「松庵日記」)も複写で入手し解読にかかった。江戸時代に農事日記や商売記録のような家職の継続を意識した記録はあるが、庶民の親子で日常の出来事を記した日記が残っているのはまれである。今後父親の日記を解読することで、医者で漢学者で文化人でもあった父による子どもの教育の性による内容差(美寿には兄弟姉妹があった)を中心に探りたいと考えている。