著者
平野 恵
出版者
文京ふるさと歴史館
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は、近世後期から近代初期までの約100年間を対象として、日本における温室の歴史的意義を解明することを目標として据え、前段階として温室にかかわる史料を、近世的な「窖」と、近代的な「ガラス温室」の二つに分けて収集した。「窖」に関しては、本草学者また植木屋がその網羅的著作、植物図鑑・名鑑から、窖をどのように記録したかを調査した。小野蘭山『重訂本草綱目啓蒙』ほか五種の著作のなかでは、全体で数えても57例、重複分を除くと44種の植物に関して窖の記載があり、記述の傾向には異国産植物に対して詳しい記載があった。また、窖の一部を形成するガラス障子の史料、崖地や地下を掘って作った窖の史料をも提示し、これらにより、19世紀前半は土や岩を掘る古い形の窖から、新しい形式の窖を工夫して製作しようとする段階であることを明らかにした。以上は、2007年12月9日開催)で口頭発表を行い、論文「本草学者による和風温室『窖』の記録」(『洋学』16号、2008年)としても発表した。一方、19世紀後半ガラス温室の史料は、内国博や、酒井忠興や大隈重信ら華族らによって広められ一般に公開されたことが判明した。近代における園芸は、果樹・疏菜に重点を置き、花卉栽培は趣味人の道楽という側面が強くなっていった。ただし、華族の園芸趣味は、「奇品」の収集公開という点では、近世後期における旗本を中心とする園芸愛好家の事例と非常に酷似していた。このことは、近世から近代への連続性として今後の重要な課題として研究を続けたい。以上の一部は、2007年度長崎大学における洋学史学会秋季大会(2007年11月11日開催)シンポジウムC「本草から植物学へ」において「十九世紀における植物概究と商業園芸」として口頭発表した(発表要旨集『平成19年度日本医史学会秋季大会・平成19年度日本薬史学会年会・2007年度洋学史学会秋季大会合同大会プログラム・抄録集』に所収)。