著者
石橋 由美
出版者
札幌医科大学衛生短期大学部
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1988

幼児の仲間との葛藤場面では、自己と仲間の意図の対立を調整する自己統制の働きが予想される。Rubinらの対人情報処理モデルによれば、仲間の意図の認知は社会的問題解決過程の一つの要因である。そこで本研究では幼児の仲間との葛藤場面における社会的問題解決パターンを分析し、仲間の意図情報の認知と解決パターンとの関係、及びその発達的変化について検討した。幼児が集団保育場面で日常的に経験する仲間との葛藤場面について保母に聞き取り収集を行い、4種の葛藤場面(物語1:おうちごっこの仲間入り、物語2:ブランコ交代、物語3:バケツを借りる、物語4:鬼ごっこ)を設定した。4、5、6歳児に、自己と仲間を主人公にした上述の4種の社会的葛藤を示す語を2コマの線画を用いて聞かせ、それに続く解決部分を自由に話させた。次に仲間の意図情報を与え、同様に解決部分を作話させた。子どもの反応はVTR記録され、反応パターンが分析された。ブランコ交代を拒否された場合、始めの自己の意図を実現するために仲間を説得したり、仲間の意図を取り入れた解決案を提案する解決パターンを示す者は、意図情報付加前には年長児に多い。しかしこの解決パターンは仲間の意図情報を与えることにより各年齢で増加する。また鬼ごっこでタッチされて自分が転んだ場合、鬼ごっこを継続する解決パターンを取る者は年長になるにつれて多くなるが、仲間の意図情報を与えることにより年少児でも増加する。これらの結果は、幼児の仲間との社会的問題解決過程で仲間や自己の意図の認知が一つの要因として働くことを示している。従って、これらの結果はRubinらの対人情報処理モデルを支持すると言えよう。