著者
工藤 浩二
出版者
東京都立大江戸高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2012

1 研究目的現在のところ,国内の高校生においては,アイポジション(Bowen,1978)は単独ではなく,適切なアサーションスキル(関係性維持能力や自他尊重の姿勢など)との交互作用によって初めて適応的なものとなるのではないかと考えられている。このことについて検証を行うことを本研究の目的とした。2 研究方法首都圏の高校生(炉221)を対象として,アイポジション,アサーションスキルおよび不適応状態に関する質問紙調査を実施した。質問紙は,アイポジションについては,高校生用自己分化度尺度(工藤・藤生,2010),アサーションスキル(関係調整および他者受容)については,ENDCOREs(藤本・大坊,2007),そして,不適応状態については,日本版GRQ30(中川・大坊,1985)を利用した。分析は,階層的重回帰分析を用いた。独立〓数として,アイポジションおよびアサーションスキル(関係調整および他者受容)を1ステップ目に投入,次いで,アイポジションとアサーションスキルの交互作用項を2ステップ目に投入した。GHQ30で測定した不適応状態を従属変数とした。3 研究成果分析の結果は,アサーションスキルとして関係調整について分析した場合と他者受容について分析した場合のいずれにおいても同様のものとなった。まず,1ステップ目におけるパス係数(標準化係数)の値はいずれも1%水準以上の高い水準で有意な負の値となった。しかし,その絶対値は,3を上回らず,実質科学的な知見として積極的に意味を認められる程度のものではなかった。また,2ステップ目における決定係数の増分の値は有意ではなかった。これにより「アイポジションがアサーションスキルとの交互作用によって初めて適応的なものとなる」ということは確認されなかった。今後,ネガティブライフイベントなど不適応状態の生起に関連する他の要因も含めた上で,より精緻に検証する必要があると考えられる。