著者
三池田 修
出版者
東京都立翔陽高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

高等学校「化学基礎」におけるイオンの学習では、電気泳動を観察するとイオンを理解しやすくなる。従来の教材では実験時間やイオンの種類、電源装置などに難点があり、イオンの性質を生徒の視覚に訴えかけるのが難しかった。本研究では専用の電源装置の開発と植物染色の応用により「イオンが目に見えて動く」と生徒にその場で実感させ、イオンの性質を理解させる教材を作成することができた。さらにこの実験方法が電気分解の学習にも利用できることを見出した。電気泳動の電源装置は、商用電源から700V直流(20W)を出力するものを設計・製作した。最終的には、回路はハーフブリッジコンバータとし、一次側と二次側を絶縁するトランスを用い、最終段で6倍圧整流するものとした。電気的には出力を大地と絶縁させ、感電の危険を抑えた。この装置により11㎝のろ紙上でのイオンの電気泳動を1~3分間で目視で観察できるようになり、少人数授業では生徒に直接観察させ、教室授業では教材提示装置で指導することができるようになった。陽イオンの電気泳動では、植物染色の媒染法を応用するとIII (HDイオン、銅(II)イオン、アルミニウムイオンなど学習上基本的な陽イオンの泳動を鮮明に観察できることがわかった。すなわち紅茶、スオウ、ログウッドなどで染めたろ紙を食酢希釈液または薄い炭酸水素ナトリウム水溶液で濡らし、そこへ上述のイオンを含ませたろ紙片を乗せて実験した。さらに染色したろ紙を用い、電極に鉄、銅、アルミニウムなどを用いて電気分解を行うと、電極の酸化で生成したイオンの泳動が観察でき、イオンの生成や電気分解の学習にも有効なこともわかった。開発した装置と実験の追試験を他校教員に依頼した結果、高速で鮮明な電気泳動が再確認され、イオンの性質や電気分解の反応の学習に効果的なことが支持された。