著者
相川 恵子
出版者
横浜市立篠原西小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

自閉症スペクトラムの子どもが学校での活動に参加しようとするとき、問題になりやすい要素の一つに、感覚過敏(hypersensitivity)がある。学校現場では、とくに学校環境・教育環境に不可欠な音環境(音声や音響)に対する「聴覚過敏」は、多くの教育行為に影響を与える。聴覚過敏のある児童にとって、学校環境は音の洪水・音のカオスである。現在、教育環境の整備は、高い視覚的な認知力を活用した「構造化」の形で多くの学校で取り入れられている。それに反して、音環境はまだまだ整理されていない。自閉症の子が生活する学校での音の全体的な風景(サウンドスケープ,Porteous & Mastin,1985)を調整し、ストレスの少ないものになるようにデザインするために、小学校就学以前から高等学校在籍児童・生徒までの12名の聴覚過敏のあるお子さんについて保護者と指導者(学級担任)からの聞き取り調査を実施した。その結果、次のようなことが明らかになった。保護者が、「特定の音に対する過敏性」に目を向けがちであるのに対して、教師は「音」への過敏性よりも、その子の生きにくさ・困難さ全体への支援の一部としての「音への過敏性」ととらえる傾向があった。聞き取り調査に答えた担任全員が、「聴覚過敏」への対応をしているにもかかわらず、対象児童・生徒を聴覚過敏と感じたことはないと答えている。さらに、それぞれの「聴覚過敏」の状態に合わせて継続的な支援を行っている。校内サウンドスケープ・デザインが、単に「音刺激」の調整だけに終わるのでは不十分である。(1)感度の亢進(2)特定音響特性の忌避(3)過剰情報量の忌避(4)質的変調刺激の忌避(5)予測しにくい刺激の回避・忌避(6)恐怖症対象刺激の回避・忌避(7)意味づけ困難刺激の忌避(8)理由不明の忌避等の、現象・原因別に環境調整・情報調整を行うことが、対象児童・生徒のストレス軽減につながり、全校レベルでの校内サウンドスケープ・デザインにつながると考える。