- 著者
-
坂梨 仁彦
- 出版者
- 熊本県地域振興部文化企画課
- 雑誌
- 奨励研究
- 巻号頁・発行日
- 2009
研究目的:ヤマドリ(キジ科)は、本州以南に留鳥として生息する日本固有の鳥類である。色彩多型に富み、5亜種に分けられている。狩猟鳥として人気が高く、個体数の急激な減少を見せている。また、その分布の境界では中間型が知られており、保全研究の上でも、混乱を来している。この原因の一つが、亜種を顧みない放鳥の影響ではないかという懸念が指摘されており、その真偽のほどは未だに不明である。そこで、本研究では、ヤマドリの放鳥以前の個体群の遺伝子と、現生の個体群の遺伝子を比較解析することにより、放鳥の影響の有無を探ろうというものである。研究方法:私は、これまで、日本全国から狩猟により得られた現生のヤマドリ約200個体について、オリジナルなプライマーの設計を行うなどして、ミトコンドリアDNA(mtDNA)コントロール領域の分析を試み、全部で64のハプロタイプを見い出すことができた。そのハプロタイプには、地域による若干の偏りは認められたものの、亜種または地域に固有のハプロタイプはなく、全国的に同じようなハプロタイプが広く存在していることが明らかになった。今年度は、主として、放鳥事業が始まる(1973)以前に捕獲され、剥製として保管されている標本からDNAを抽出し、mtDNAの塩基配列の決定を行った。剥製のDNAはかなり断片化が進んでおり、新たなプライマーの作成が必要であったが、約100個体の剥製のコントロール領域ドメイン1の塩基配列、約400bpを決定することができた。研究成果:その結果、現生の個体には見られなかった新たなハプロタイプを見いだすことができた。しかし、これらの個体は、現生のものと同じように、地域固有のものでは無いものと思われた。つまり、ヤマドリは、相当な数が狩猟により捕獲され続けていたにもかかわらず、遺伝的な多様度は大変高く(0.98)、今も昔も変わりなく、多様な個体群から構成されているものと推察された。さらに、養殖されている放鳥個体からも複数のハプロタイプが見いだされたが、特有のものはなく、放鳥が特に何らかの影響を与えているとは考えにくいと結論される。