著者
田口 真二
出版者
熊本県警察本部科学捜査研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

目的刑務所等に収容されていない一般の男性に対して,未遂を含む性暴力の加害経験について自己報告研究を行い,性暴力の加害経験を持つ者の要因構造が,加害経験がない群と等質であるか異質であるか,あるいは連続性があるかについて実証的に検討した。方法(1)質問紙の内容■性暴力加害経験についてのスクリーニング質問■男性用性的欲求尺度(田口ら,2007)■新性格検査(柳井ら,1987)■性犯罪神話尺度(湯川・泊,1999),平等主義的性役割態度スケール短縮版(鈴木,1994),女性に対する敵意(大渕ら,1985)■性行動やメディア興奮度など。(2)調査対象者18歳以上の男性785名(東北地方から九州地方に居住する会社員319名,公務員205名,学生213名,その他48名)のデータを収集した。平均年齢34.1歳(SD=13.09,18-69歳)。(3)手続き平成18年7月下旬から8月上旬および平成19年7月下旬に調査協力者を介して個別に配布する宿題調査並びに大学での集合調査を行った。調査票は無記名。回収率は40.4%であった。結果と考察加害経験を持つ者151人(以下、加害群)の要因構造を検討し、「性的欲求」「性格」「女性認知」「性行動」の4因子からなる因子分析モデルが構築された。加害群から得られた因子分析モデルを使い,加害群と非加害群の2母集団同時分析を行った。群間に等値制約を置かないモデルで十分な適合度が得られたので,確認的因子分析モデルが非加害群にも適用できることが示された。両群のモデルにおいて因子不変が成立しているので,加害群と非加害群は質的な構造が同じといえる。以上から,加害群と非加害群は,質的構造は同じであるが因子の推定値が異なる,すなわち連続性があるということができる。性暴力行為すなわち広義の性犯罪を加害者として経験した群とそうでない群が異質ではなく連続性があることが確認されたことは,大学生や一般人を対象とした性犯罪研究の正当性を裏付けるものである。今後,性犯罪研究の分野における一般人を対象としたアナログ研究の進展が期待される。