著者
戸谷 登貴子
出版者
独立行政法人国立病院機構
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2018

1. 研究目的本研究は、学校音楽授業の歌唱学習プロセスを現象的に捉え、科学的な分析を行うことから歌唱指導の改善・向上を図ることを目的とした。小・中学校の授業の歌唱学習方法が模倣を中心としており、それにより起こる相似現象には、学習者が指導者の長所のみならず、短所までも習得している可能性がある。しかし、このことを現場教師の多くが気づかず指導に当っている。これは、歌唱指導法の問題に加え、子ども達の学習状況と喉の健康面にも問題が生じている。そこで集団歌唱の中で個々がどのように歌唱しているか、特に教師との模倣、学習者同士の模倣に焦点を当てて実態を明らかにすることから、学習プロセスにおける相似現象の特徴とメカニズムを明らかにすることとした。2. 研究方法(1)音声分析・解析国立病院機構東京医療センター臨床研究センターの医学博士・角田晃一研究部長に音声解析と研究助言を、東京大学附属病院耳鼻咽喉科の医学博士・今川博氏に音声分析の協力を頂いた。(2)音声検査千葉県内の公立中学校2校の音楽授業で、中学1年生を対象に音声検査を行った。3. 研究成果実際の音楽授業での集団歌唱場面で、教師の歌唱と個々の歌唱の音声検査を行うことができた。被験者が中学1年生だったため、変声期の生徒も多く、さらに部活動などが原因と思われる嗄声も両校共に見られた。それらの音声データから歌唱学習が個々の実態に即して行うことの難しさも明らかになった。また、教師と生徒との歌唱の相似は、今回の音声データにも見られたが、特に教師の嗄声が生徒の歌声の響きのポジションに影響していることがわかった。このことは、生徒たちの声の健康面にも影響するため、教師自身が気づいて指導することが大変重要である。これらの課題は、音声データと共に学会で発表を行った。歌唱指導法の向上だけでなく、学校教育において、子ども達の声についての関心と喉の健康について啓蒙する必要性を感じた。