著者
益田 理広 Mashita Michihiro
出版者
琉球大学国際地域創造学部地域文化科学プログラム
雑誌
地理歴史人類学論集 = Journal of geography, history, and anthropology (ISSN:21858535)
巻号頁・発行日
no.10, pp.119-132, 2021

本研究は儒学的「正名」の伝統を範とする所謂シェーファー対ハーツホーン論争の中心概念,「空間関係」並びに「地域」の仔細な検証である.前編たる本稿では,両概念及びシェーファー,ハーツホーン両氏の理論に関する既往の解釈に就て,その系譜を確認するとともに,各解釈に存する問題を剔出した.同論争に対する解釈には,主として①"空間を重視するシェーファー"と"場所に固執するハーツホーン"の対立として図式的に捉える者,②両氏の対立の原因を空間概念理解の哲学的相異に求める者,③両氏を新旧地理学の潮流の代表と考え,各々の美点に於ける融合を奨める者,④既に確定的な学史の一部として記述する者の四者が認められるが,孰れにも素朴な誤解と自説への付会が介在し,為めに混乱を来している.殊にハーツホーンに関する解釈は各論ともに不正確であり,両氏の著作そのものに即した「正名」が必須であることが自ずから知られるのである.