- 著者
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伊籐 央奈
- 出版者
- 田村市立滝根中学校
- 雑誌
- 奨励研究
- 巻号頁・発行日
- 2011
糖尿病の発症には、糖質のみならず、脂質など様々な栄養素の摂取量やその代謝が影響している。我が国の糖尿病患者増加の背景として、必ずしも"飽食"のみが原因ではないと考える。近年、糖尿病患者にナイアシン(ニコチン酸及びニコチンアミド)を投与すると、ナイアシンの生体内代謝産物であるメチルニコチンアミドの血中濃度が上昇し、血中のH_2O_2レベルの上昇とともにインスリン抵抗性を引き起こすことが報告されている。一方、脂肪細胞によって作り出される、エネルギーの取り込みと消費の制御に重要な役割を果たすレプチンというペプチドホルモンがある。レプチンは食事後20~30分後に分泌され、脳に摂食抑制信号が送る役割を果たす。また、脂肪組織自体にも働きかけ、エネルギー代謝の増大の指示を出す。逆に、脂肪が増えるとレプチンも増え、レプチンが脳の容量に対して飽和状態に陥ることでレプチン抵抗性という状態を引き起こす。これが肥満原因の一つになるとも言われている。我々は、脂肪細胞にニコチンアミド(NA)を添加して培養を行い、レプチンの産生にどのような影響を及ぼすのか検討を行った。NAの濃度をそれぞれ変えて1週間および2週間培養を行い、細胞あたりのレプチン産生量を測定した。1週間培養を行った場合は、1mMの濃度まではレプチン産生が約3倍に増加した。2週間培養を行った場合は、0.1mM以上のNA濃度ではレプチン産生が約3分の1に低下していた。これらの実験結果より、NAは短期的には脂肪細胞のレプチン産生を増加させ、レプチン抵抗性を起こす可能性がある。長期的にはレプチンの産生を低下させ、肥満を引き起こす可能性が示された。ナイアシン投与で糖尿病患者にインスリン抵抗性を起こすという報告と今回の実験結果を考え合わせれば、糖尿病患者にナイアシンを投与する治療は慎重に検討されるべきである。