著者
松尾 健治
出版者
碩学舎
雑誌
碩学舎ビジネス・ジャーナル = Sekigakusha Business Journal (ISSN:21870845)
巻号頁・発行日
no.41, pp.[1]-17, 2019-03-29

本研究の目的は組織内部のステークホルダーを対象としたレトリカル・ヒストリーによって意図せざる結果としての不利益が生じるメカニズムを明らかにすることである. 既存のレトリカル・ヒストリー研究の殆どは語り手が自らの意図を実現し, 組織にとって有益な効果をもたらすことに成功している事例を取り上げている. また, 意図せざる結果を取り上げている数少ない研究は外部の関係者を聴き手としたレトリカル・ヒストリーに関するものであった. そこで本研究では組織内部のメンバーを聴き手としたレトリカル・ヒストリーによって意図せざる結果としての不利益が生じるメカニズムを明らかにするために, 戦後鐘紡の事例を取り上げた. 戦前に業績面で顕著な成功を果たした偉容を, 戦後鐘紡の経営者は「大鐘紡」と表現し,その再興を目指すというレトリックを用いて高い業績目標を継続的に掲げた. その結果, 希求水準の硬直性や成果主義の強調が生じ, 目標達成を強いられた事業部では不適切な販売が行われ, 延いては組織の資源損耗を招くこととなった.