著者
松尾 健治
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第89集 日本的経営の現在─日本的経営の何を残し,何を変えるか─ (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.F45-1-F45-8, 2019 (Released:2019-09-26)

本研究の目的は,「レトリカル・ヒストリー(rhetorical history)」についての近年の研究蓄積の状況を検討したうえで,意図せざる結果や失敗のメカニズムといった論点が従来見過ごされてきたことを示し,今後の研究に向けた展望を提示することである。レトリカル・ヒストリーは「企業の重要なステークホルダーを管理するための説得戦略として過去を戦略的に用いること」と定義され,正当性の確保,あるいは組織アイデンティティや組織のレピュテーションの管理といった目的で実践される。しかしながら既存研究では,意図せざる結果,とりわけ失敗に関する研究蓄積が欠けていた。その理由としては,当事者が協力を忌避しがちであることや,歴史を物語る際の聴き手の反作用についての考慮が不十分であるといったことが考えられる。本稿ではこうした問題意識に基づいたうえで,今後,意図せざる結果や失敗についての研究を蓄積していく上で必要な方法論に関する考察を行う。
著者
松尾 健治
出版者
碩学舎
雑誌
碩学舎ビジネス・ジャーナル = Sekigakusha Business Journal (ISSN:21870845)
巻号頁・発行日
no.41, pp.[1]-17, 2019-03-29

本研究の目的は組織内部のステークホルダーを対象としたレトリカル・ヒストリーによって意図せざる結果としての不利益が生じるメカニズムを明らかにすることである. 既存のレトリカル・ヒストリー研究の殆どは語り手が自らの意図を実現し, 組織にとって有益な効果をもたらすことに成功している事例を取り上げている. また, 意図せざる結果を取り上げている数少ない研究は外部の関係者を聴き手としたレトリカル・ヒストリーに関するものであった. そこで本研究では組織内部のメンバーを聴き手としたレトリカル・ヒストリーによって意図せざる結果としての不利益が生じるメカニズムを明らかにするために, 戦後鐘紡の事例を取り上げた. 戦前に業績面で顕著な成功を果たした偉容を, 戦後鐘紡の経営者は「大鐘紡」と表現し,その再興を目指すというレトリックを用いて高い業績目標を継続的に掲げた. その結果, 希求水準の硬直性や成果主義の強調が生じ, 目標達成を強いられた事業部では不適切な販売が行われ, 延いては組織の資源損耗を招くこととなった.