著者
田中 大介
出版者
秋田県立金足農業高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

ニホンヤマビル(Haemadipsa zelanica japonica)は,山林に生息する体長約2~8cmの吸血性環形動物である.秋田県は,全国的に有名なヤマビル大繁殖地域(北限)であり,世界遺産に指定されている白神山地にヤマビルが侵入すれば駆除する手立ては無い.そこで,ヤマビル汚染から白神山地を保護するためにヤマビルの生態に関する研究をおこなった.ヤマビル消化管内に残る血液のDNA分析の開発・調査をおこなった.その結果,秋田県の主な宿主はカモシカであることを特定した.また、センサーカメラを用いた野生動物生息状況の調査から,ツキノワグマ,アナグマ,タヌキ,ホンドテン等がヒル蔓延に関与することが示唆された.ヤマビル生息域は,まだ白神山地まで達していなかったが,年ごとに確実に北上していることが明らかになった.神奈川・千葉県の放牧地に生息するヒルは,ウシを吸血していることが明らかとなったことから,ヤマビルが家畜を襲い大増殖することが懸念される。隣県の岩手県は牧場周辺までヒル生息域が広がっていることが調査から判明した.また,温暖化の影響で宿主となるニホンジカ生息域が北上化していた。それに伴い、ヤマビル生息北限(宮城県北部)も岩手県北部まで北上していた。ヤマビル忌避効果の高い薬剤を明らかにし,安全かつ薬剤効果の高いヤマビル忌避剤を探索した.スクリーニングした結果,サリチル酸2-ヒドロキシエチル,サリチル酸メチル,サリチル酸,アセチルサリチル酸,L-メントールおよびバニリンは,ヤマビルに対する忌避効果を有することが明らかとなった.ヤマビル忌避剤として使用することで,吸血被害を無くし白神山の環境保全と里山復興事業に貢献するものと考えられる.