著者
大竹 由夏
出版者
筑波大学大学院人間総合科学研究科
雑誌
芸術学研究 = Tsukuba studies in art and design
巻号頁・発行日
vol.22, pp.1-10, 2017-12

東京都心部では、都市が高層化しており、東京タワーの見える場所も年々少なくなっている。本稿は、今後保全すべき東京タワーの眺望点を新たに提案するための基礎的研究である。まず、東京タワーの眺望景観の保全の現状を整理した。現在の景観施策において、保全されている東京タワーの眺望点は、タワー近辺の地上である芝公園と増上寺、赤羽橋交差点に限られていること、眺望警官の種類は、公園景と街路景、寺社景に限られていることを明らかにした。次に、東京タワーの場景が描かれた漫画23作品333コマを探索し、それらのイメージを分析・考察した。東京タワーは、地上だけでなく上空の眺望点からも描かれ、また、上空景、足下景、街路景、公園景、水辺景、寺社景、高速道路景、電車景の順に多く描かれていることを明らかにした。以上に基づき、眺望景観の種類のうち現在保全されている公演景と街路景、寺社景だけでなく、漫画に描かれていた上空景、足下景、水辺景、高速道路景、電車景も保全することを提案する。また、現在保全されている地上のタワー近くの眺望点だけでなく、川岸や海岸のように東京タワーから遠い地点や、上空の地点である首都高速道路やJR線、展望台や飛行経路、芝公園上空も、眺望点に選定することを提案する。Every year, the urban center of Tokyo is becoming more verticalized and the number of locations from which the Tokyo Tower is visible is decreasing. This paper proposes new sites for viewing the Tokyo Tower and how they should be preserved in the future. First, we summarized the status of preservation of views of the Tokyo Tower. We identified that in the current policy, locations for viewing are limited to areas near the tower at the ground level, Shiba Park, Zojoji Temple, and the Akabanebashi intersection, and the types of preserved views of the Tokyo Tower are limited to park, street, and temple views. Subsequently, we searched through 333 panels from 23 manga works depicting scenes of the Tokyo Tower and considered these scenes. Apart from being depicted from the ground level, the Tokyo Tower was depicted from aerial viewing points, as well. We also demonstrated that the tower was most often depicted in views from above, foot-level views, street views, park views, waterfront fiews, temple views, highway views, and train views, in that order. After careful selection, we think that at least the aforementioned eight types of scenery depicted in the manga should be preserved. Among the different types of scenery of the Tokyo Tower, we propose preserving the views from above, foot-level views, waterfront views, highway views, and train views as depicted in the manga, in addition to the park, street, and temple views that are currently being preserved. In addition to the ground-level views from the areas in the vicinity of the tower that are currently being preserved, we propose seleting locations far away from the Tokyo Tower, such as riverbanks and the coast, locations up in the air such as Metropolitan Expressway and JR line, observation decks, flight paths, and the air above Shiba Park, as viewing points of the tower.
著者
澤田 麻美 Mami SAWADA
出版者
筑波大学大学院人間総合科学研究科
雑誌
芸術学研究 = Tsukuba studies in art and design
巻号頁・発行日
no.24, pp.21-30, 2019-12

吉岡堅二(1906-1990)は、新美術人協会や山樹社など幾つもの在野運動を展開し、1948 年には現在の創画会の前身である創造美術結成に携わるなど、昭和期における日本画の革新運動を牽引した画家である。しかし、吉岡に関する先行研究は、画集や展覧会図録等に掲載されたわずかな作家論にとどまっている。本稿は、先行研究では詳細に触れられていない制作過程の一端を提示する事を目的とする。特に、筆者が吉岡の制作で重要な役割を果たしていると推測した、下図における画面構成の検討と本画の関係について考察を試みる。はじめに、吉岡に関する研究の現状を明示する。次に、本稿の着眼点である下図について述べるために、まず日本画における下図の役割を概観する。そして、吉岡の制作に関わる資料について整理した上で、制作過程を分析し、吉岡における下図の重要性を示す。本稿を進めるにあたり、旧吉岡家住宅の資料の整理を行っている、東大和市立郷土博物館の協力を得て調査をした。吉岡の所有していた文献資料から、1930 年頃には西洋の美術思潮に関心を寄せ、徐々に形態の表現に注目し始める様子が見受けられた。そして、それらを咀嚼した下図作りは、1950 年では、画家の頭の中に漠然と存在しつつも、捉え処のないイメージから制作が出発したといえる。それが、基準線や幾何形体を用いた下図作りを契機に、イメージの具現化の課題が解決されていった。本画においても、下図で検討された幾何形体が保持されていた。吉岡が、当時の美術思潮に注目しながら、制作の中で画面構成を重視していたことが写生から下図、本画という制作過程に一貫して見受けられた。先行研究で吉岡の作風が「合理的」、「造形的」と表されることに対し、さらに吉岡の表現について考察を深めるために、本稿で下図の役割と変遷から考察し、その中でも「下図」に新たな糸口を見出したことは成果の一つである。著作権保護のため、すべての掲載図版に墨消し処理を施しています。