著者
西尾 敏和
出版者
群馬県立高崎工業高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

○研究目的群馬県の富岡製糸場を産業遺産の事例とし, 運搬・類似性という切り口で, 産業遺産が地域コミュニティに及ぼす影響を明らかにし, 産業遺産を地城活性化へ活用するための基盤となる研究を行う。○研究方法1, 富岡・横浜・海外を結ぶシルクロードの明確化2. 国内の類似遺産との比較考察○研究成果1. 富岡製糸場の操業では, 国内で原料繭を購入して生糸を生産し, 製品の多くを米国や欧州などの海外に輸出していた。1937年度には, 生糸生産量が132.9トンであったのに対し, ピークの1974年度には373.4トンと2.8倍に増加した。工女数は, 1937年度が498人に対し, 1974年度は100人と5分の1に減少した。操業開始以来, 繰糸場を使い続けながら, 繰糸機の技術改良などにより, 生産効率を格段に向上させた。そのため, 富岡製糸場の生産量が座繰を含む国内製糸場の総生産量に占める割合は, 1937年度や1941年度の0.3%と比較すると, 1984年度には2.9%にまで上昇した。2. 横須賀市博物館研究報告と旧富岡製糸場建物群調査報告書から, 横須賀製鉄所と富岡製糸場の類似性について検討を行った。結果, 建設に関わった技師, 木骨煉瓦造, フランス積の3つのキーワードを抽出した。人物の経歴・雇用形態・設計過程の観点にまとめた結果, 横須賀製鉄所のバスチャンが富岡製糸場の建築図面を完成し, 建築担当を兼任して煉瓦の目地材の性状組成などを指導していたことや, どのような履歴をもって, 煉瓦の組積法や建築構造などの技術を富岡製糸場の煉瓦建造物の設計・施工に従事して伝えたかを推察することができた。バスチャンにより横須賀製鉄所のヨーロッパ系の煉瓦建造物の技術が富岡製糸場に伝播したことは, 富岡製糸場の産業遺産的価値のうち建造物的価値を高めるまちづくりへの活用の可能性を潜在していると考える。具体的には, ヨーロッパと横須賀製鉄所の技術を伝える唯一の遺構である富岡製糸場周辺地区の施設整備や景観対策などが考えられる。