- 著者
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吉満 庄司
- 出版者
- 鹿児島県知事公室政策調整課
- 雑誌
- 奨励研究
- 巻号頁・発行日
- 2016
本研究は, 上海や香港を拠点として日本との貿易を展開したジャーディン・マセソン商会の史料に基づき, 幕末期に薩摩藩が長崎のグラバー商会を窓口として行った貿易の実態の解明を目指したものである。研究は, まずケンブリッジ大学中央図書館が所蔵するジャーディン・マセソン商会文書から, Nagasaki, Glover, Satsumaといったキーワードを基に, 関係史料を集中的に収集(撮影)した。帰国後, 収集した史料の翻訳・分析を進める一方, 『玉里島津家史料』, 『島津忠義公史料』といった薩摩藩側の基礎史料と照らし合わせて考察することでで, 貿易の実態の一端を解明した。併せて, 先行研究(石井寛治『近代日本とイギリス資本―ジャーディン=マセソン商会を中心に―』, 杉山伸也『明治維新とイギリス商人』, 原口泉「世界綿花飢饉と幕末薩摩藩―討幕の資金調達と武器購入―」鹿児島大学法文学部『人文学科論集第40集』など)を, 収集した史料を基に再検証した。ジャーディン・マセソン商会文書からは, 幕末の日本からの輸出品として, 横浜からは圧倒的にSilkの輸出が多いのに対し, 長崎からはTeaが多いことや, 薩摩藩がグラバー商会を経由してCottonを輸出している実態が見て取れた。輸入については, 通説どおり軍艦が最も重要で高価な品であり, これもまたグラバー商会がその主な窓口になっていた状況が確認できた。なお, 貿易そのもの以外にも, 薩摩藩英国留学生への送金方法について, ジャーディン・マセソン商会を通して行っていた実態の一端を確認することができ, 長崎における同社の代理人であるグラバーに薩摩藩が支払うといったシステムが出来ていることなどを史料的に明らかにした。