著者
岩下 孝 関谷 紀子
出版者
(財)サントリー生物有機科学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

膜タンパク質に^<19>F固体NMR法を適用して構造解析を行うためにフッ素化トリプトファンのバクテリオロドプシンへの取込み実験を計画した。バクテリオロドプシンには8個のトリプトファンしか含まれていないが、化学シフトの重なりが予想されるので分散性を期待して4-F、5-F、6-F-トリプトファンについて取込み実験を行い、それぞれのトリプトファンが標識されたフッ素化バクテリオロドプシンを得た。その中で6-F-トリプトファンを含むバクテリオロドプシンはスクロースグラジエントやMALDI-TOF MSの挙動からタンパク質と膜との複合的な構造に根本的な違いがある可能性が示唆された。そこで、これら3種のF-トリプトファン含有バクテリオロドプシンのX線回折実験およびCDスペクトルの測定を行ったところ、6-F-トリプトファンを含むバクテリオロドプシンについてはX線回折像が全く得られず、またCDスペクトルからも非結晶性であることが明かとなった。タンパク質内での核間距離の測定を目指してレチナールクロモフォアのシクロヘキセニル部分をCF3基を持つベンゼン環に置換した合成レチナールを調製し、5-F-トリプトファンを含むオプシンとの再構成を行った。トリプトファンのインドール環上にあるフッ素と天然レチナールと置き換えた合成レチナールのCF3基との間に双極子-双極子相互作用による磁化移動が起こるかどうか実験を行った。1次元RFDR実験と2次元CP_EXCY実験によって磁化移動が起っていることが示唆されたので、2次元MELODRAMA実験を行ったところ、両者の化学シフトが交差する位置にダイアゴナルピークとは逆位相のクロスピークを観測し磁化移動が起っていることを確認した。