著者
岸本 千佳司
出版者
(財)国際東アジア研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究の課題は、(1)IT産業(特に半導体産業)で近年成長著しい台湾と中国に注目し、地域の産業クラスターの観点から、その成長のダイナミズムを分析する(具体的には、台湾・新竹-台北エリアと中国・長江デルタ地域、および派生的研究として日本・九州エリアに注目した)、(2)さらに地域クラスターの発展には、実は、地域外(海外も含む)のアクターとのリンケージが重要な影響を及ぼすと指摘する近年の研究動向を踏まえ、両国(地域)の半導体産業クラスターの分析に、外資系企業や海外パートナーとのリンケージも視野に納めることである。成果としては、第1に、上述の2つのエリア(および九州エリア)に関して、半導体産業クラスターの中の分業関係、地域の事業環境、当該地域の企業の経営の特徴等を現地調査の結果を踏まえ詳細に分析した。第2に、各エリアのクラスターの発展に、外的アクターが様々な形で関与し影響を及ぼしていること(例えば、外資系企業として、市場・顧客として、技術提携・交流のパートナーとして、先端技術・製品コンセプトのソースとして、高度な装置・部材のサプライヤーとして)、さらには、台湾・新竹-台北エリアのようにダイナミックなクラスターほど、地域内部の企業・関連機関間リンケージの高度化を外部(特に海外アクターとの)リンケージで補完し連動させるグローバルな戦略性をもっていることを指摘した。その点、中国・長江デルタ地域は台湾に似た方向に発展しつつも、環境が未整備で外資に依存する部分が大きい。日本・九州は先発組みであるにもかかわらずやや静態的で、地域内のリンケージも国際リンケージも未発達であることが判明した。以上、一定の成果を収めつつも、海外現地調査に伴う困難と半導体産業の具体的ビジネス状況への理解不足から、不徹底な部分もある。特に、上述の2(もしくは3)地域が、如何に競合・分業関係を形成していくか、その過程で、競争力の源泉となる地域特有の制度・政策・産業構造・ビジネスモデルがどのように構築・再編されていくかという地域間の国際的相互作用を踏まえた動態的分析が残された重要課題である。