- 著者
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横山 秀克
- 出版者
- (財)山形県テクノポリス財団(生物ラジカル研究所)
- 雑誌
- 奨励研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 1997
ドパミン神経は脳内で重要な役割を果たす神経細胞である。ドパミンはモノアミン酸化酵素代謝を受けるが、その代謝過程で活性酸素である過酸化水素が発生することが知られでいる。こうした活性酸素による細胞障害とドパミン神経障害との関連性が指摘されている(ドパミン神経障害の活性酸素仮説)。このようなドパミン神経障害には、いまなお原因が不明で難治な疾患が少なくない。従って、これらの疾患と活性酸素との関連を解明することは、その治療戦略を考えるうえで極めて重要である。本研究では、前年度で確立した白金円盤微小電極による脳内過酸化水素計測法の応用として、ドパミン神経障害の一つである遅発性ジスキネジアの疾患モデル動物の脳内における過酸化水素計測を行ない、抗精神病薬投与後の過酸化水素濃度上昇が抑制されているという知見を得た。これは遅発性ジスキネジアを引き起こす抗精神病薬の長期投与がドパミン代謝回転の低下させるという報告に合致する。さらに同モデル動物における脳内の脂肪酸ラジカルを電子スピン共鳴法を用いて検出した。これらの結果は、遅発性ジスキネジアではドパミン代謝回転低下がおこり過酸化水素の生成は抑制されているが、脂肪酸ラジカルの発生、つまり神経細胞膜脂質の過酸化障害は活発に進行していることを示すものといえる。ドパミン神経障害の活性酸素仮説においては、ドパミン代謝亢進と過酸化水素産生は密接な関係にある。そこで、この仮説の検証のためには、ドパミンと過酸化水素の同時計測が必要となる。そこで、本研究では、白金円盤微小電極を用いた脳内の過酸化水素とドパミンの時間経過を同時計測する手法の開発も行なった。そしてこの手法を用いて、ドパミン代謝亢進をもたらす薬物であるメタンフェタミンを投与した実験動物の脳内のドパミンと過酸化水素濃度の経時的変化の同時計測を行い、ほぼ同時に両者が上昇することを確認した。以上の所見は全てドパミン神経障害の活性酸素仮説を強く裏付けるものとなった。