著者
河合 千恵子 佐々木 正宏
出版者
(財)東京都高齢者研究・福祉振興財団
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

死別体験者が死別の悲嘆をいつ、どのように克服しているのかについて明らかにするために、配偶者と死別した男女276名を対象に2000年と2002年の2回にわたり縦断調査を実施してきた。それに加えて今回は3回目の調査を実施し、135名の対象者(男性55人、女性80人)から調査協力を得た。1.死別の悲しみから既に立ち直ったかどうかを対象者に尋ねた回答では、「すっかり立ち直った」と回答した者は調査を重ねるごとに増加し、第3回調査では6割を越えていた。対象者の意識の面では、回復には死別からの経過期間の要因が大きく影響していた。2.配偶者と死別後の心理的適応について、有配偶者をコントロール群として比較するため、2000年に調査を実施した1,893人のパネルに追跡調査を実施した。今回は1,169名に協力が得られ、そのうち配偶者と同居していた715名をコントロール群として用いた。より高齢の死別群は5年間に精神的健康度について得点の変化が認められず、また有配偶群より、精神的健康度が一貫して悪かった。有配偶群は2005年に精神的健康度にかなりの低下がみられたが、それでもなお死別群より得点は良好であった。死別群は5年を経て意識面では顕著な回復を示したが、精神的健康面では限界があることがうかがわれた。3.第3回調査で、現在の生活に困難を感じている傾向が伺われた男性21名に、死別から現在までの適応過程についてインタビューを行い、質的な検討を行った。立ち直りについては、多くは立ち直ったと考えていたが、立ち直れていないとはっきり自覚している人もいた。立ち直りがあきらめや現実の受容であると考える人が多かったが、それは死別後の生活の確立であると考える人もいた。立ち直りに役立ったことについては、強い精神を強調する人もいたが、泣くことの意味を述べる人もいた。配偶者を亡くした男性の心境は多様であり、立ち直りの過程も単一ではないと言える。
著者
河合 千恵子
出版者
(財)東京都高齢者研究・福祉振興財団
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究の目的は,配偶者との死別後の最初の数年間での回復のあり方が,その後の人生におけるサクセスフルエイジングを予測するとする仮説を明らかにすることである.調査対象者は配偶者と死別した184名の中高年者(平均年齢70.9歳,配偶者と死別後平均8ヶ月)で,死別後の16年間に3回の面接調査を行った.第2回調査は初回調査の翌年に,第3回調査は初回調査から15年後に実施し,第2回調査は136名,第3回調査は51名の対象者から回答を得た.分析は,サクセスフルエイジングの指標となる変数(安否,精神的健康,いきいき尺度)を従属変数に,死別後の回復の指標となる変数(抑うつ感及び孤独感の変化)を独立変数にしたロジスティック回帰分析と重回帰分析を行なった.抑うつ感は第2回調査時の安否を予測する有意な要因であったが,第3回調査時の安否を予測しなかった.孤独感は第3回調査時点における病気や死亡のリスク要因で,第1回調査から第2回調査にかけて上昇した場合には第3回調査時点で病気や死亡の危険があることが判明した.孤独感はまた第3回調査時の精神的健康や幸福感を予測する要因でもあった.死別後に孤独感の上昇が見られたり,孤独感が高い状態にある場合には第3回調査時の精神的健康状態が悪く,また死別後孤独感が低下する場合には第3回調査時の幸福感が高まることが判明した.以上の結果から配偶者との死別後の孤独感の回復のあり方は,その後の人生におけるサクセスフルエイジングを予測すると結論した.