著者
虫賀 幹華
出版者
JAPANESE ASSOCIATION FOR SOUTH ASIAN STUDIES
雑誌
南アジア研究 (ISSN:09155643)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.26, pp.7-25, 2014

古代インドの祖先祭祀として理解されるシュラーッダおよび同儀礼で祀られるピトリたち<i>pitaraḥ</i>はそれぞれ「祖霊祭」「祖霊」と訳されてきたが、それらの概念が十分に考察されているとは言いがたい。本稿では、紀元前3世紀から後3世紀頃にかけて編纂されたスートラ文献およびその補遺文献のうち、シュラーッダに関する記述を収録している28のサンスクリット語文献を選び、祖霊という語で曖昧にされてきたシュラーッダの対象を具体的に提示した。時代が下るにつれ、「ピトリたち」すなわち〈父・父方の祖父・父方の曾祖父〉だけでなく、彼らの〈妻たち(母・父方の祖母・父方の曾祖母)〉、〈母方の祖父たちとその妻たち(母方の祖父母・母方の曾祖父母・母方の高祖父母)〉も祭祀対象として規定されたことが明らかとなった。本稿の後半では、母方親族への祭祀の発展過程を示し、それと「指定女の息子<i>putrikāputra</i>」の義務との関連性を仮説的に提示した。
著者
板倉 和裕
出版者
JAPANESE ASSOCIATION FOR SOUTH ASIAN STUDIES
雑誌
南アジア研究 (ISSN:09155643)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.26, pp.46-72, 2014

本稿は、社会的マイノリティに対して、留保議席のような政治的保障措置を世界に先駆けて導入したインドの経験に注目し、インド建国の指導者たちがなぜそのような措置を憲法の中に盛り込むことにしたのかを考察する。インドの制憲過程を扱った研究の多くがムスリムの処遇問題に関心を寄せてきた一方で、指定カーストの指導者たちによる、政治的権利獲得のための主体的な活動を考察に入れた政治過程の分析は十分に進められてこなかった。そこで、本稿では、指定カーストの中心的指導者であったB・R・アンベードカルに焦点を当て、制憲議会を取り巻く政治環境の変化に対するアンベードカルの適応過程と、それと同時に形成された会議派指導者との協力関係に注目し、インドの制憲政治を再検討することにより、指定カースト留保議席がインド憲法にいかにしてもたらされたのかを明らかにする。