- 著者
-
川崎 洋
- 出版者
- 医学書院
- 巻号頁・発行日
- pp.514, 2015-06-01
腸管内には多様な微生物が大量に生息しており,宿主に対して重要な役割を担っている.宿主と微生物相との関係が崩れると,炎症性腸疾患やメタボリックシンドロームなどの慢性炎症性疾患の発症につながる可能性が近年指摘されている.腸管表面は多層構造の粘液で覆われ,腸管上皮と腸内細菌を安全な距離に保っている.本研究では,食品添加物として汎用される乳化剤が粘液と細菌との相互作用に影響し,炎症性腸疾患やメタボリックシンドロームの発症に関わる可能性を示した. 一般に使用されているカルボキシメチルセルロースとポリソルベート80という2種類の乳化剤をマウスに摂取させたところ,腸内細菌は腸管粘液層内に侵入し,腸管上皮近くに存在するようになった.さらに乳化剤の摂取は,細菌叢の構成を変化させ,腸内での炎症誘発や腸管上皮バリア異常を促進する方向に作用することがわかった.これらの乳化剤の作用は,低用量の使用であっても野生型マウスに軽度の腸内炎症やメタボリックシンドロームを引き起こし,Il10-/-やTlr5-/-などの腸内に慢性炎症を生じやすい素因を持ったマウスにおいては重度の大腸炎の発症につながることがわかった.一方,無菌環境下で飼育したマウスに乳化剤を投与しても,大腸炎やメタボリックシンドロームは生じず,粘液層の障害もみられなかった.乳化剤投与マウスの糞便を,乳化剤を投与していない無菌マウスへ移入する実験を行ったところ,腸管粘液層の障害を認め,腸内炎症やメタボリックシンドロームの発症を導いた.以上より,乳化剤が関与する大腸炎やメタボリックシンドロームの発症に腸内細菌が関与している可能性が示唆された.